(創作) 夢の桜
むかしむかし 花はことばを持っていて
むかしむかし 木々はことばを持っていて
ほんの時折 人と言葉を交わした
それは母のない娘が 嫁に行く日の朝だったり
数百年の樹齢に 別れを告げる時だったり
時にはその身に 人の手で打ち込まれて朽ちた五寸釘を抱えたまま
あるものは紅の襲をまとった姫君の姿で
あるものは白い髭を伸ばした老人の姿で
泡のような 花びらのような 柔らかい言葉を交わした
若い将が 桜のことばを聴けたのは 何ゆえだったのだろう
あるいは女の姿で現れる桜の精に 惚れていたのかもしれぬ
政を理解しない桜は 古の帝たちと その政を知っている
古き時代の知恵 古き時代の理 そして古き時代の罪
桜は見てきた 何百年の昔から
罪 謀略 そして暗殺の真相を
そしてある日 将は 我が罪が桜の口にのぼることを恐れ
愛しい姫桜の首に 剣をたてた
桜は恨みや憎しみを理解しない
首に刺さった剣を見つめて すうぅ…… と 消えた
花びらが風で飛ぶように
落ち葉が風で飛ぶように
そして地に広がる木々の根が 思いのほか遠くに届くように
桜の意識は 遠くすべての木々たちに届く
ことばを持ってはいけない
ことばを持つことを人に知れてはいけない
人と言葉を交わしてはいけない
だから木々は ことばを捨てた
首に布を巻き 紅の襲をまとった姫君が 人間たちを見つめている
ことばを持たない口もとは ただ 微笑んでいるだけ
ことばを持たない口もとは ただ 微笑んでいるだけ
現在、某所で私が10年以上前に書いた文章が公開されてます。
恥ずかしいことこの上ないのですが、少し懐かしく、
また、小説なんて書かなくなっちゃったなあ と、最近の忙しさをさびしく思ったりもします。
一時期、一生の仕事にしようかとさえ思った絵画には、それ以上ご無沙汰になってます。
で、何故これが和の書庫に入っているかというと、桜の精たちが和服を着ているからです。
春の襲(はるのかさね) http://www.ikiya.jp/kasane/haru.html
ことばのリズム重視で紅の襲 (べにのかさね) とはしましたが、
薄花桜か一重梅といったところで、表の色は白です。
参考までに、老人の方は、遊行柳 (ゆぎょうやなぎ) の爺さんです。
こちらも春なので、薄鼠、瓶覗と言った明るめな色を考え、
姿は“ホリヒロシ”の人形を思い浮かべながら書きました。
http://www.fashionmuseum.or.jp/museum/index091022.html
自分のための備忘録 襲の色見本 http://www.ikiya.jp/color/scheme/spring.html
春の襲(はるのかさね) http://www.ikiya.jp/kasane/haru.html
ことばのリズム重視で紅の襲 (べにのかさね) とはしましたが、
薄花桜か一重梅といったところで、表の色は白です。
参考までに、老人の方は、遊行柳 (ゆぎょうやなぎ) の爺さんです。
こちらも春なので、薄鼠、瓶覗と言った明るめな色を考え、
姿は“ホリヒロシ”の人形を思い浮かべながら書きました。
http://www.fashionmuseum.or.jp/museum/index091022.html
自分のための備忘録 襲の色見本 http://www.ikiya.jp/color/scheme/spring.html
どの人の記事にインスパイアされて書いたかは、多分心当たりがあるだろうその人と私の、内緒。