ブログ引越し検討中 (仮住まい)

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追悼

平服でおいで下さい、と書かれていたので、
喪服ではないけれど、一応黒っぽい服は着ていたんだ。 
午前中、どうしてもやっておきたい実験準備があったから、
電車ダイヤの乱れもものともせず、つくばに出勤して、真空装置立ち上げてプラズマのマッチングとって、
積み上がった書類にサインして、メールに返信して、秘書さんに伝言して、それから研究所を出る。
          あ、マニキュア、できなかった。 実験室にいたから、しょうがないよね。
                                        (エタノールを使うから、消えちゃうんだ)
 
 
私の学位論文の指導教官は、当時としては珍しく、企業で働いた経験のある人だった。
指導教官に目をかけてくれていたという、その企業の社長は、こういう人だ。
 
ずっと企業にいた人なのに、
私はこの人を研究者・指導者として知っているだけで、イメージ 1
企業経営者として、どんな方だったか知らない。
でも、多くの企業OB(当然、中途退社)を、
大学や研究機関に送りだした人だ。
 
学生の頃、そして就職間もない頃、
指導教官経由で面識のあったこの方に、
学会で言葉をかけていただくこともあったし、
昨年の夏、講習会で講義をした時は、
特別講演のご講演も聞くチャンスがあった。
 
    #受講生よりも、多分私たち講師の方が、
    #ずっと楽しんで聞いていたと思う。
 
9月の終わりに、その方が亡くなった。 http://www.jiji.com/jc/zc?k=201010/2010100500347

 
昔、私が初めて国際会議で口頭発表する前に、指導教官は自分の学会デビューの話をしてくれた。
教官も初めての発表の時は上がりまくって、質問が全然聞き取れなかった、と。
その時、彼が元勤めていた企業の社長が会場に来ていて、
「僕が訳してあげよう」 と、日本語で、質問者の疑問を繰り返してくれた、と。
大抵の場合、質問の内容と意図をちゃんと理解できれば、英語で答えるのは苦ではない。
若かった指導教官と質問者の会話はからみ合い、きちんとした質疑応答になったのだそうだ。
 
      #ちなみに、座長が分かりやすい言葉で質問し直してくれたり、
      #こちらの説明を、他の言い回しで伝えてくれたりすることはままある。
      #でも、企業から大学に出向していたのに、
      #その大学で学位を取った後、そのまま大学の助手になって、会社に戻らなかった彼を、
      #社長は快く思っていないにちがいない、と、私の指導教授は思っていたそうだ。
      #それなのに、社長は彼を助けてくれた、と。
 
学会会場には、敵もいるし、味方もいる。
でも、発表者の中にある答えを聞きたい、という共通点がある。
発表者から答えを引き出すための協力なら、みんなしてくれる。
だから、初めての発表だからって、心配しなくても大丈夫だ、と、指導教官は私に話した。
     だいたい君は、僕より耳(英会話をキャッチする能力)がいいだろう、とも言われた。だから、自信を持って話しておいで、と。
 
林さんのお名前を聞くと、私の指導教官の尊敬のまなざしが、一緒に思いだされる。
企業経営者である前に、研究者だった人、教育者であり、指導者だった人。
企業の拡大をし、日本での業界トップに上りつめた人。 真空物理の最重要人物のうちの一人。
富永先生は、去年の暮れにお亡くなりになった。 林さんも、逝ってしまわれた。
誰がこの業界の後を継げるのだろう?
岡野先生? 荒川先生? それとも企業にいる誰かか。
時代が変わったのだと言えば、それまでだが、
企業と大学などが乖離してしまった日本を、心配してらっしゃるのではないかなあ。
 
帝国ホテルで行われた、会社主催のお別れ会は、大学人、企業人でにぎやかだ。
ルードヴィッヒ二世の書籍を送っていただいた小宮さんと、久しぶりにお話をした。
        5巻を執筆した時に謎だったルードヴィッヒのセリフの意味がわかったので、
        書籍の続きを執筆することを、考えていらっしゃるらしい
来月のセミクローズドセミナーで、アドバイザーをなさる先生もお見かけした。
        一昨日出したメールのお返事をいただいていないので、ちゃっかり問い合わせたりした。
あれ? 早稲田大学の教授だ。 あの方も、この会社のOBだったんですね。
        お知り合いでしたか? どこで? この業界も狭いですね
 
      ………産学連携、昔は、ちゃんとできてたんじゃん…………
 

林さんは、偉大な人だったし、いろんな意味での弟子も多いし、
私みたいな孫弟子、曾孫弟子ならもっといる。
私の夫のように、対立する同業他社にいてこの場に来れない人も、林さんに対しては別格の思いだろう。
 
富永先生とご同様、宗教色のないお別れは、白いカーネーションの献花。

ご冥福をお祈りいたします。