ブログ引越し検討中 (仮住まい)

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(創作) 屋敷というほど広くはないんだけど、お化け屋敷と呼んでくれてもいいじゃないか、と同じサイズの建売に住んでいる隣の少年が言った or Welcome to our haunted house♪

論文書きのストレスで、雑文(趣味のショートショート小説)を書いてたらしょうもないのだが、
思いついちまったもんはしょうがない。
元ネタは昔考えて、途中までできあがってはいたのだが。
タイトルは、「ウェルカム……」 とでもしておこうかなあ。



『Welcome
to our haunted house』



「山崎が事故ったのもこのあたりだったかな」

国道を走りながら思い出した。学生時代の映画仲間が、交通事故で亡くなった場所だ。
葬式に参列して、焼香して、それきりだった。年賀状すら途切れた相手が亡くなったところでそんなものだ。売れないながらも映画業界の端に名を連ねていた彼を、どこかで羨んでいたのかもしれない。
そう考えたのは、先週のホラー番組で出てきた心霊写真が、奴の姿に見えたからだ。
うっすらと映ったそれは、恨みがましくも恐ろしくもなく、片手に丸めた脚本を持って、楽しそうだった。その幽霊を見てみたくなった。いい年をした大人が幽霊屋敷の探検だなど、ばかげている。ばかげてはいるが、現場に行けばこの好奇心もモヤモヤも満足するだろう、と、仕事明けに車を走らせてきた、と、いうわけだ。

特集によれば、幽霊が出るという噂は昔からのもので、すすり泣きだの足音だの話は、十数年前からあったそうだ。霊山を崩して作られた住宅街だとか、墓を動かして建てられたとか、ありふれた理由で、かといって根拠となる古文書があるわけでもなかったから、誰もが都市伝説的なでっち上げだと思っていたらしい。

ところが1年くらい前から急に、「この家が怖い」 という噂が広まりだした。今日び、ツイッターやらラインやらで、どんな噂も収拾がつかないほどに広がるものだから、文才のある奴がツイートしただけのことかもしれないが、
化けて出てくるものも様々で、空中に正座して眠るばあさんとか (空中浮遊の新興宗教?)
天井をさかさまになって駆け回る猫とか (3D貞子?)
ドアを通り抜けるカブトムシとか (元ネタはなんだ?)
ふすまを開けると大波が打ち寄せるとか (映画のパクリだろっ)
隙間から見つめる少年とか (呪怨?)
首の伸びるおじさんとか、トカゲとか (ろくろ首なのに美女じゃないのか!)

よく言えば意表を突いた、あるいは荒唐無稽な、いやいや、あまりにも意味不明だから怖いのか。
日本は欧米に比べてコミカルな幽霊がいないので、「目新しい」 のは認めるが、雑多すぎだし、週刊誌記事を読む分かぎり 「演出がなってねーな」 と思われる現れ方だ。妖怪たちが持っているポジションを、このホーンテッドハウスが奪おうとしているのか、とも思う。では、この幽霊騒ぎは、狐か妖怪の仕業だろうか。



おどろおどろしい洋館を期待したわけではないが、探し当てたのはあまりにも普通の一戸建だった。
幸か不幸か両隣も空き家だから、肝試しの若者でごった返していると聞いていた。
あれはテレビ番組が大げさに言っただけなのだろう、少なくとも深夜の今は静まり返っている。

鍵が閉まっていたら帰ろうと思っていたのに、何気なく触れた玄関ドアが、音もなく手前に開いた。
Welcome to our haunted house
なんだか好意的なものを感じて、足を踏み入れた。



                                                



「うぅぅ……あたま、痛え……」
たしか階段を上がっている時に、足元が崩れて、
「そんなことはないと思うぞ、もう、痛みは感じないはずだ」 
---------- へ?
少しだけ老けて半分透き通った山崎が、俺を見下ろしていた。

「や、やややや、山崎? お前どうして、あ、幽霊か? 幽霊なのか?」
不本意ながら、そのようだ。それを言うならお前も幽霊だぞ?」
「!?」
「ほれ、あそこで死んでる」  階段が崩れた下に俺が変な形で横たわっていた。
「打ち所が悪かったんだろうな、骨も随分折れているようだ」
「救急車!」
「誰が呼ぶんだよ」
「………」

「びしょ濡れのままじゃないか、電気が来てないんでドライアーは使えないが、タオルはあるぞ」
そういえばシャイニングもどきの水礫にやられて、服が湿っている。髪を拭きながら聞いた。
「山崎、お前、ここに住んでんの? いや、それより、久しぶり」
透き通った山崎は笑顔になった。「驚かないのか?」
「ま、どうせ夢だろうから」 
その割には、頭もタオルも生臭くて、妙にリアルだが、
死んでから見ているにしても、気を失って見ているにしても夢にしておけば問題ない。
「最近の幽霊は、みんなそういうこと言うのな」
「ええ、ぼくもそう思います
いつからいたのか、山崎の隣にいた中学生くらいの少年が、やっぱり透き通ってニコニコしていた。
「紹介しよう、この子はゆきや君、最近のこの家の評判は、この子のおかげなんだよ」

ゆきやは隣の家に住んでいたんだそうだ。
死因は中2病が高じて刃物持ってケンカしたあげく刺され所が悪かった、という悲惨なものだが、
今の彼を見るといたって穏やかで、とても喧嘩をするようには見えない。

山崎が細々と仕掛けていたお化け屋敷トリックに、
ツイッター用に撮影しやすいよう、ストップモーションを入れたり、動きに緩急をつけたりしたそうだ。
暗すぎたら写らないし、フラッシュをたかれたら透き通ってしまうので、調整が難しいとのこと。
その辺で死んで数多くいる動物たちを使った意味不明の動きも、中学生が考えたと思えば納得がいく。
「簡単なんです、ちょっと鏡の向きを変えて、人の姿を反射させると、きゃあきゃあいって怖がる」
いたずら真っ盛り、中学生は楽しそうだ。

「で? やっぱり山崎が脚本書いてたんだな、シャイニングだのオーメンだの、パクリすぎだろ」
「それに、あのネタはものすごく水道料金がかかるので、うちの親、引っ越しちゃったんです」
「……両隣が空き家の理由はそれかよっ、いや、水道水を盗んでたのか」
「ああ。それで、今年は川の水を使ったんだ。おかげで生臭くなって、ホラーっぽさが増した」

う~~ん。どうリアクションしていいやら。

こいつらのやっていることはわかったが、それにいったい何の意味が……
いや、自主製作映画なんて利益もないし、撮りたくて撮ってるだけだったし、
それでも観客が喜んでくれればうれしかったし
そうだよな~ 中二病の基本は俺本人を認めろ、っていう自己顕示欲だよな~

「そういうわけで、だ」 
山崎がパンと手を打つと、幽霊の手とは思えない良い音がした。「お前を呼んだってわけだ」
「は?」
「脚本と主演だけじゃどうにもならんだろ、お前、「演出」頼むわ」
「はあぁぁぁ?」

                                                

主演 かとうゆきや
脚本 山崎幽一
演出 佐々木俊行             

今年の夏は楽しそうだ

.
おしまい。  

BGMつけてみました。

Ray Parker, Jr. - Ghostbusters



<あとがき>
ゆきや君を刺しちゃった少年がマスコミや新聞では少年法云々で開き直る奴に見えていながら、
幽霊が出るという家に、夜中に謝りに来て、友だちでもあった彼を思って号泣していくとか、

あるいは夜明けとともに佐々木さんがお化け屋敷で目覚めて終わり、とか、

他の流れやオチも考えつくのだけれど、途中で飽きたので突き放します…… 
分量的にもう一章あった方がいいのではないか、とは思いますが。

どうやってリアルな幽霊を作るか、という脚本班、音響班や美術担当を引きずり込んで、
色々発展させるのも面白そうかも。
高齢で亡くなってから、幽霊になった人がいてもいいし、その人が海外旅行に行って
幽霊になったら、というよりテレパシーには語学の壁があるのかなあ、という疑問もあります。
英語で話しているはずの言葉が理解できるなら、
言葉が伝わる空気の振動や、聞き取っている鼓膜の動き、はては聴覚神経も無意味なわけで。

と、いろいろありますが、お粗末でした♪
(お粗末ではありますが、文頭の文字下がりがないのは、アップロードするときに消えてしまうからです。
改行が多いのも、横書きで(文頭文字下がりなどがなく)読みにくいからあえてそうしています。
文章の書き方の基本がなっていない、と思われるかもしれませんが、
webで横書き対応のためにこういう書式にしているものです)

また、人間とコミカルに応答する幽霊について一応、書いておきます。 
オスカー=ワイルドの『キャンタビルの幽霊』という戯曲に、
幽霊が血のりが足りなくなって、そこの家の子供の絵の具を使う、というくだりがあります。
でも、住人が洗剤の会社に勤めていて、嬉々として家の汚れを拭っていってしまうのです。
その時、「うんうん、壁に人のシミができても、内装屋さんなら速攻で壁紙剥がすだろうしね」、と――――

幽霊が、幽霊らしくしようと頑張る話の元は、その時すでに思い浮かんでいたのかもしれません。