ブログ引越し検討中 (仮住まい)

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(創作) 『お化け民家』、『Welcome to our haunted house 2』 あるいは 『続・佐々木さんとゆきや君』

 「あの~ 確かに屋敷っていうほど広くないし、建売だし、隣の家もほとんど同じ作りですけどぉ
.    せっかく 『お化け屋敷』 の言い回しがあるのに、『民家』 って言うのやめませんか?
.    死んでまで金のある奴とない奴、区別されてるようで、きついんっすけど」




『猫の幸せ』


テレビ番組としては、比較的小規模な部類だ。
現場には、悲鳴係として昔ちょっとだけ売れたアイドルがひとりと、ブレイクして間もないお笑い芸人がひとり。
白い着物を着て数珠を持った小太りの霊能者がひとり。アシスタントディレクターに、カメラマンがひとりずつ。
照明、小道具、雑用兼務のアルバイトが二人。1人はハンドビデオを持っている。
一方、スタジオにはそこそこ売れてる司会者と、ひな壇芸人たちが10名程度。スタッフ約10名。

小規模ではあるが、心霊スポットの中継が入るのが見どころと言えば見どころだ。
まあ、そうはいっても、これまで、運よく超常現象が撮影できたことはなく、
再現ビデオや録画の迷光を、それっぽく解説するだけの番組だった。


万年ADの嶋田は大いに期待をしていた。
この家はローカル局で取材をされて評判になり、肝試しの若者がやってくるローカルスポットだったのだが、
一昨年、床下から遺体が出てから雲行きが変わった。
遺体の身元は近所に止めた(レッカー移動されていた)車からすぐに分かったし、
死因も階段と床が崩れて打ち所が悪かった、というわかりやすいものだったが、
お化け屋敷から死体が出た、ということで、日本中に知られることになった。
それに誰かの幽霊だろうと自然現象だろうとトリックだろうと、嶋田にはどうでも良かった。
この家は高い確率で怪現象が起きる、それだけで十分だった。
すでに録画もできているが、ライブで中継できれば、スタジオは大騒ぎになるだろう。
うすぼんやりとした少年の姿が写った窓の映像もある。
「出てくれよ」 嶋田は祈った。

健太郎はあくびをかみ殺した。
普段ならネットゲームをしている時間なのに、どうして眠くなるのだろう。
AYAMEに会えるというから、バイトをひきうけてみたのに、
無愛想なうえに、肌が荒れていて、アイドル時代の美貌はずいぶんくすんでみえた。
それでも、デビュー当時からファンでライブに行った、と言ったら、「ありがとう」と、握手してきた。
食事くらい行ってももいいかな、健太郎は、今度は大あくびしながらAYAMEを眺め続けた。

AYAMEは自分が霊感が強い方ではないと知っていた。 幽霊など見たことはない。
だが事務所に言われれば、霊感が強い事にして深夜収録の番組にも出なければならない。
それが気に入らなかった。
こちらから挨拶したのに、共演者のドンジャラβはふらふらと首を動かしただけだったし、
霊能おばさんに至っては、勢いよく鼻息を吐いただけだった。
あああ、ヤダヤダ。 大げさに叫ぶだけ叫んで、さっさと終わらせよう。

それでも、カメラが回り、中継が繋がると、全員がピシッとした。


音もなく、ドアが手前に開いた。 
Welcome
to our haunted house



                        


「先生、そこ、気を付けてください、床が濡れています」
ドンジャラがふだんの甲高い声を殺して、マユラマユラにささやいた。
「感じます………非常に強い念を感じます」

確かに床がびしょびしょだったが、それは昼間、ADの嶋田が健太郎と下見に来た時に水が溢れ出たからだ。
水を避けるため、廊下にセットしたモニターを覗きこみ、嶋田は顔をしかめた。イマイチ映像が悪い。
カメラを回していなかったのは残念だった、と、嶋田は思った。
昼間なら真ん中で撮影できたし自然光の方が映像もクリアだったはずだ。
狭い部屋なので、出演する3人以外、壁に張り付いて撮影をしている状態だ。
この壁をぶち抜いて、直視できるようにしておくべきだったか。
肝試しの連中が撮影したものがyoutubeに出ている。少なくともあれ以上の映像を撮らなければ――――

どこかで猫が鳴いた。

カメラマンの足を支えて、不安定な体勢になっていた健太郎が 「捨て猫かな」 と思った瞬間、
「きゃああああ!!」 AYAMEの凄まじい悲鳴が響いた。「いまっ 猫が、猫の声がっ」
いや、猫の声でそこまで叫んだらダメだろ 
数珠を持って念じていたマユラマユラも、露骨に嫌な顔でAYAMEを見た。

「霊が怒りますよ―――― 彼らの無念の思いが……」


また、猫が鳴いた………

次の瞬間、床も壁も半透明の猫が走り回って、みゅうみゅう、ニャアニャア大騒ぎになった。
その数、数十匹。猫はマユラマユラの身体もドンジャラの身体も走り抜け、天井まで登って行く。
と、大きな音がして、照明が倒れた。
「何やってんだよ、ゆきや、この猫どうにかしろ」
「昔ここ猫屋敷だったんだよ、婆さんの姿見て興奮してる」
「化け猫屋敷にするか?」
「勝手に脚本変えるな」

ライトを持っていたバイトが、気を失って倒れたのだ。
「みなさん、みえますか!? 猫が、ここに猫が走り回っています!!」
あらぬ方向にスポットが向いて、暗闇になった部屋の中央でドンジャラが叫んでいる。
猫が見えてるのかな、がんばるなあ、健太郎は感心しながら、ライトを拾ってドンジャラに向けた。
マユラマユラは目を閉じて一心不乱に祈っている。
廊下を見をやると、イヤホンからスタジオの様子が聞こえるのだろう、AD嶋田は目をぎらつかせている。

AYAMEは一生懸命悲鳴を上げていたが、まわりが猫ネコ騒いでいる理由がわからなかった。
一度、鳴き声は聞こえたが……猫など見えなかった。
ただ、猫アレルギーの鼻が、少しむずむずするような気がする。
口だけで叫びながら、カメラの前でドンジャラがまくし立てているのを見るとはなく見ていたが、

「あれ?」

ふだんよく見る光景なので、少し前までは違和感すらなかった。
喋っている中継者の後ろに、カメラに映ろうと、Vサインをしながらピョンピョン跳ねる色白の子供がいた。
「ばかっ 何してる」
「だってテレビ中継なんて、初めてじゃない」
「今、……後ろに何か見えたかも」
カメラがが引いて自分が写ってからAYAMEが指をさすと、もう少年の姿は消えていた。
「かあっ――――――――――!」 
遅ればせながらマユラマユラの除霊の一喝。
いや、もう消えてたし、と、誰もが思った。



ドンジャラを中心に中継が続く。 いよいよシャイニングの扉だ。

AD嶋田はカメラ一台だけでは不安だとでも思ったのか、ハンディカメラを構えてやってきた。
そしてイヤホンを確認しながらドンジャラに合図を送った。
「そしてここが、噂の……」 

 ざっぱ~ん 

予定調和的に、開いたドアから水が溢れた。AD嶋田や健太郎にとっては本日二度目だ。
ところが知っているはずの嶋田が、ウっと、うめいて倒れた。
額を押さえて倒れたところを見ると、水と一緒に固いものでも飛んできたらしい。 これか?

「あ、亀だ」 どうリアクションしていいか悩……

「わぁ~ カメ入ってた★」


半透明の子供が、ひょいっと割り込んできた。健太郎の右半身と重なっている。
「うわわわわわっ」 
健太郎は飛びのいた。飛びのいて、しりもちをついてしまった。
「不用意に出るなよ、ゆきや」
「だってカメだよ! ミドリガメだよ!」
「脚本を変えるなとゆーに」

ライトは気を失ったままだし、嶋田も倒れているし、
嶋田の耳から外れたイヤホンから、スタジオの悲鳴が漏れ聞こえる。
「キュ、救急車呼んできます!」 カメラマンが叫んで、走り出した。
「おいっ、こらっ 携帯使えよっ カメラどうするんだよ」 
ドンジャラが止めようとしたが、カメラマンの逃げ足は速かった。 ついでに、ドンジャラも追いかけて消えた。

俺だって逃げたい、足がすくんでいなければ、と、健太郎は思った。
元々、霊の見える体質だったが、ここまで接近したことはない。
撮影は終わりにするしかないか、と、健太郎はイヤホンを拾ってスタジオの様子を知ろうとした。
「CMの時間ですが、中継を続けます、ドンジャラさん、ドンジャラさ~ん」

ええええええ ……どうすんだよ。俺、バイトだよ? ドンジャラ、行っちゃったよ?

    「手伝ってやろうか?」

「うあああああああっ」   誰も触っていないのに、カメラの向きが、クキっと変わった。

「わたしには見えます! 少年の霊の姿がはっきりと」 
忘れてた、マユラマユラが祈ってたんだった。 
「俺にも見えてる。頼むから早く除霊してくれ!」

    「というか、我々の姿、けっこう誰にでも見えるようにしてるんですよね~」


「しゃ、しゃ、しゃ、しゃ喋りかけるな……こっちを見るな、近づくなぁぁ」

「みなさん、何か見えるんですか?」
カメラが回っていないと思っているのか、AYAMEがしらっとした顔で聞いた。
「み、み、み、見えないの?」
「亀は見えます」



「ここはぁ、おまえたちのいる所ではないっ!!」 マユラマユラがしゃがれ声で叫ぶ。

    「ええええ、たしかにぼくのうちは隣だけども……」

「だから、しゃべるな~ 会話するな~」 健太郎は気を失えない自分がもどかしかった。
おどろおどろしい姿でこそないものの、何体もの幽霊が部屋の中を浮遊している。
大きいのが二体、小さいのが一体、かき消えそうなのも何体かるし、猫も何匹か飛んでいた。
子供の霊は、事前に聞いたケンカで殺された少年だろうか。

マユラマユラも子供の話を知っているのだろう、
「恨みに凝り固まったままではいけませんっ! 成仏なさいっ!」

.    「うるさいなあ、別に恨んでないし。面白いからここにいるだけだよ、大人はいつも自分のことを棚に上げて、
.      あれをやれこれをやれ、だいたい世の中は汚れてて、僕のことは誰もわからなくて、わかるはずがなくて、
.      でも偉大な人間は子供の頃にわかってもらえなくて、だからあんたたちも……」

うざっ こいつ中2病か?
心なしかマユラマユラや大人の幽霊たちに、しら~っとした空気が広がった気たする。  

           「俺は自損の事故死だから、恨みも何も……なあ?」

                 「俺はこいつに事故死に見せかけて殺されたあ」
           「何言ってんだよ、人聞き悪い」
    「そうだよ、佐々木さん高血圧だし、太りすぎて階段、踏み抜いたんだよ」

デロデロしていた少年の霊が、素に戻って、ツッコミを入れた。

怖い事は怖い、確かに怖い。マジもんの幽霊だし。
だが、健太郎は笑いそうになった。
佐々木と呼ばれた幽霊が、いかにも高血圧のおっさんだったからだ。

とはいえ、まだ足に力が入らない。 逃げられない。
これ、中継に音、入ってるのかな………ひな壇芸人は逃げ出してるんじゃないだろうか。
マユラマユラは霊に向かって 「カ――――ッ、カ――――ッ」 と、威嚇している。
健太郎のすぐそばに透き通った猫が来た。何匹か、子猫も来た。
猫たちはそれぞれに、マユラマユラを見上げている。
ケンカで死んだ子供の他に、何か聞いてたぞ、ええと、何だっけ? そうだ、猫屋敷だ。

「おい、ばあさん」
マユラマユラはぎぎっ、と、健太郎を睨みつけた。幽霊よりも迫力がある。 
「失礼、マユラマユラさん」 健太郎は言い直した。
「猫たちは、心残りがあるんじゃないっすか? 飼い主の婆さ…… いや、飼い主が外で急死して、
そのままエサがなくて死んじゃったらしいから」
「だから、なんだというのですっ」
「頭を撫でてやったらどうでしょう? 見えてんでしょ?」

マユラマユラは少し躊躇したが、猫(幽霊)を撫でる絵面が悪くないと思ったらしい、
跪いて、足元に寄ってきた半透明猫に触れた。

ゴロゴロという声と鈴の音がして、透き通っていた猫が完全に消えた。
すぐに次の猫が寄っていった。
猫たちはあっという間にワサワサ増えて、再び部屋は猫だらけになった。

「いいの~? ぼくが幼稚園の頃から猫屋敷だったからさあ、100匹以上いるんじゃないかな」


立ち尽くしていただけのAYAMEが派手なくしゃみをした。



「あの……」 イヤホンをしたまま、健太郎は声を出して言ってみた。
「何だ?」  猫を順番に撫でながら、マユラマユラが答える。
「いや、マユラさんじゃなく」
「なんだ?」  モニターを見ていた小太りの幽霊が顔を上げた。
「いま、CMに入ったんですけど、ADとカメラマン、病院に連れて行っていいですか?」
もう一人(?)の幽霊も、戻ってきて、AD嶋田を見下ろした。
「こいつ、どっかで会ったことあったかなあ?

「あんたたち、成仏する気はないのかい?」 マユラマユラが言った。

「ぼくはない。父さんや母さんが泣いていたのは辛かったけど、今の方が楽しい

.     「俺はそのうちに、ってとこかなあ。孫も見たいし
.          「俺も結婚しとけばよかったかなあ
.     「でも、女房がほかの男と仲良くなるのを見るのも辛いぞ?

「だからっ ビョーインに つれていって、いいですかっ」

.   「あ、どぞ、そこの扉、外してタンカにしていいぜ。さっきの芸人も戻って来たみたいだし」
.         「予定と違ったが、猫の昇天シーンならかっこ付くかなあ」
.   「なあ、バイト君。あんたこっちに来ないか? 制作が二人だと手が足りないんだ」
.       「よせよせ、佐々木、人間ととり殺したら、成仏したくなった時にできねぇぞ
.   「俺のことはおびき寄せて、殺したくせに~」
.       「だから、太りすぎだったんだって」


「んじゃ、殺されないうちに撤収します。このまま中継続けたらどうなるかわからない」
「すでに騒いでるわよ、ツイッター、凄い」
「AYAMEさん、本番中にスマホ見るなよ」
「そうね、撤収した方がいいかもね。 だけどその前に、亀。このままじゃ死んじゃうから返してやらなきゃ
.                               「待ってよ、亀を川に帰してきて」。

はからずもAYAMEとゆきやの声がかぶって、人間二人とおっさん幽霊二人はAYAMEを見た。
AYAMEはきょとんとしている。
ゆきやは嬉しそうにふわふわ飛んで、AYAMEの周りを一周した。 

猫(幽霊)を交互にひざに乗せ、愛でていたマユラマユラが優しい声で言った。
「霊が見えるとか声が聞こえるとか、そんなことより心が通じる方がいいんだよ」

「今のセリフ、いいですねえ、ADが起きたら、使えないかきいてみます」


.      「え? カメラ動いてんの?」

「ん? ああ、中継はしてないけど、録画はしてるよ」

.      「喋っていい?」


「いいよ」 もう、怖いも何もない。神経がマヒしたのかな、と、健太郎は思う。
少年の幽霊はうれしそうに、大型カメラの前に寄って行った。

.      「ショウヘイ、高校合格おめでとう。一年遅れくらい、何でもないよ。トモ君、サッカー頑張ってな~。
.         山口先生、加藤先生、また遊びに来てください。それから父さん、このあいだ爺ちゃんがきて………」


やっぱ中学生だな、と、健太郎は思った。




それから、番組がどうなったかっていうと、やらせ番組だと、思いっきり叩かれただけだった。
でも、一部、お笑い心霊番組としてファンが付き、youtubeの再生回数が高くなったとの話もあった。

健太郎は定期的にテレビ局のバイトを続けることにし、AYAMEとの食事にも行ったようだ。


                     「ん~ はっきり見えすぎてもダメなんだよな~」





この間の続きです。
限定にしてましたが、こそこそっと、公開してみます。