世知辛いのぉ(裏)
仕事で現職総理に会っても、公務員的に広義の上司だとしか思わないのに、
この人の名前を見るだけで、「ネタになる」 と思ってしまうのは何故だろう?
フェイク・カンファレンスや、フェイク・ジャーナル(ハゲタカ出版) について書いた。
フェイク・カンファレンスに大挙して押しかけてしまう日本の大学教員は、
去年あたりから文部科学省の中でも問題視されはじめた。
■いけ好かない上司の行動■
現在、わが研究所のトップは、学部長にすらなったことがないくせに、
現政権の相談役だというだけで研究所所長に収まったという、“いけ好かない奴” だが、
そんなわけで、M省の言うことは即座に聞く。過剰に従う。
元ボスが、米国大卒で米国大教授後に帰国、大学学長を経て研究所トップになったのと対照的である。
元ボスは研究者&研究内容しか考えず、M省を軽視した報復処置で研究経費を減らされ、
それはそれで問題だったのだが、我々研究者は、元ボス大好きだった。
彼はいち早くフェイク・カンフェレンスに気づいていたが、「有利になると思ったら出席しなさい」、だった。
“いけ好かないトップ” は自分の言うことを聞く兵隊として、当時の助手達を職員にして連れてきたのだが、
そいつらが、フェイク・カンファレンスに引っかかった。
……ざまあみろ、と思った人は大勢いただろうが、問題はそこではない。
それだけ見分けにくいパターンがある、ということだ。
“いけ好かないトップ” はいけ好かない奴ではあるけれど、そういうわけで危機管理能力は高い。
危機管理能力の高いと、言質をとられたくないあまり何を言いたいか不明な場合があるが、
それに対し「要は何を言いたいのだ?」 と、聞き返せるのが、外国人の多い研究所の良い所だ。
危機管理能力は高いがいけ好かない奴は、そんな我々をコントロールしなければならず、
だから具体的に、
「フェイク・カンファレンスに参加しないよう、主催者と参加費用を精査すること」 と、お触れを出した。
「必要に応じて、過去の参加者からコメントなどをもらうこと」 うん、これも判断基準として悪くない。
■尻馬に乗る奴■
いけ好かないトップは、自分の助手も縁故採用的に職員につれてきたが、
M省におべっかを使うことも忘れない。 M省の役人を一人、経営陣に受け入れた。
キャリア官僚であるその女性は、無能ではないのかもしれないが、
M省命令、トップ命令に過剰に反応し、しかも理系の研究・情報に疎い。
わかりもしないのに、トップが(自分と対抗分野の研究として)文句をつけた研究を、いっしょになって罵る。
仮に、尻馬さん、と呼ぶことにしよう。
そういうわけで、あまり好かれてはいない。
その尻馬さんがフェイク・カンファレンス問題を担当したのはいいが、
本人には国際会議の主催者の精査基準がないから、いちいち参加にケチをつける。
来週から部下が国際会議に出席するのだが、その書類に今になって文句をつけてきた。
いわく、説明できないなら、自費で行け、的な。
1500人の研究者が、人にもよるが、年平均で4件の国際会議に出席する。
少なく見積もっても6000件になる。
その一件一件のバックデータや有識者コメントを、事務方(担当は2人)に集めさせようとしている。 無理じゃね?
■代理戦争■
昨日私は、新規出版事業の打ち合わせで、研究所の外部にいたのだが、そこに事務方からのメールで
「フェイク・カンファレンスの疑いがあり、過去の参加者コメントをもらいたい」、と指示が出ている旨を聞く。
部下が参加する国際会議は、米国大手学術団体が主催で、日本の学術団体も協賛をしている。
「何でやん」、と思いつつ、打ち合わせで忙しいので、
過去の会議出席者で、偉くてM省にもかかわりのありそうな教授を何人か選んで、
「国際会議出席に必要な書類があって~」 と、コメント依頼のメールを送った。
一方、事務方は事務方で、尻馬さんにも直接交渉しに行ってくれた―――らしい。
以下、事務方さんからの経緯報告を抜粋すると、
事務方さんが交渉に行くと、尻馬さんは他のお偉いさん(←酔うと正義漢の例の人)と話(雑談)をしていた。
事務方さんはその場で、国際会議の話をした。
なお、過去の出席者でこそないが、“隠れ正義漢”は同じ分野の研究者上がりで、
該当国際会議の日本協賛団体の責任者だから、私の 「コメントお願いメール」 のあて先の一人だ。
その前で「わけのわからない国際会議」 「信用の置ける推薦がなくては駄目」 と言い切る尻馬さん。
正義漢参戦、「これはきちんとした国際会議ですよ」 (←意味:俺らの国際会議を貶すんじゃねえ)
尻馬応酬 「国費を使って出張するのだから、内容を精査して当然でしょう!!」
正義漢 「フェイクか否かが判断できず、外部に問い合わせるなど、研究所の恥さらしだっ」
偉い人同士の戦いになってしまった、と、事務方はビビッていたが、
“隠れ正義漢”も大学の先生たちも、私は研究者としての仲間だから、
「ちゃんと謝っておくし、気にすることないですよ」、と、打ち合わせの合間にちょろっと返しておいた。
CCが送られていた(出張予定の)部下は、もっとビビッていたのは言うまでもない。 ごめんよ。
■努力の限界■
「君たちのための研究環境を作る」という元ボスと、
「難されない様、研究費が減らないよう、よい研究をします」 という研究者の関係が成立していたあとに、
「M省からの研究費を倍増しなくてはならない」、というミッションを抱えてやってきた新しいトップは、
どんな人がきても、さぞ、やりにくいだろう、と思う。
“いけ好かない奴” とはいえ、役員を受け入れ過剰反応することで、研究費を増やした手腕は立派だ。
“尻馬さん”も、トップの言うことをすべて真に受け、遂行しているだけで、悪いことをする意識はない。
“いけ好かないトップ” は研究者あがりだから、
いくら政権に腰巾着していても、研究者への話し方などは心得ている。
フェイク・カンファレンスの見極め方も、自分の分野に関しては心得ている。
それでも引っかかる場合がある、ということも、ちゃんとわかっている。
でも、“尻馬さん” が今更どんなに勉強しても、すべての分野について、見極めることはできない。
どれを照会しなきゃならず、どれなら即決で良いか、判断はできない。(たぶん、誰にもできない)
結局、個々の研究者が各分野で少し警戒心を持って、「有利だと思ったら出席する」 しかないのだが。
“隠れ正義漢” は、「旅費は勝ち取ったよ、いい発表してきてね」 というお気楽なメールを送ってきたが、
“尻馬さん” は、そんな研究者のネットワークがお好きではないらしい。 (ま、気持ちはわかる)
“尻馬さん” に嫌われたかも―――
勉強しても、勉強しても追いつかない。 職位は高いが、孤独感も半端ないだろう。
やっても無駄かもしれないけど、“尻馬さん” には、何か恩を売るネタを探しておこう。
自分のためだけではなく、彼女の心が、少しだけ安らかになるように。