就職か進学か
剣士娘の話ではない。
は学問よりも実業に興味があって、必要になったら必要な部分だけ学べばいいと考える。
何が必要かわかっていないから、就職してみて、必要ならば大学に戻ればいい、という。
少なくとも今の大学で学んでいる、社会心理学(←だったかな)を必要とする仕事には就かない、とのことだ。
は、「目的があって学ぶ」 のであって、「学ぶことが自体が楽しい」 わけではないのだと思う。
正しいといえば正しいが、私の趣味とは違う。
理系文系の違いもあるんだろうと思う。
は大学院から筑波大に入った子で、学ぶことが楽しくて、実験が好きな学生だ。
ほかの学生は実験をしに来るだけだが、はデスクもあって、毎日うちの研究室に来る。
筑波大の先生も、に関しては「の研究室で活動するために筑波大の籍を貸している」と思っている。
そういうわけで、は二人の教員の指導が受けられるともいえるし、
双方の教員が少しずつ遠慮がち、とも言える。
修士(博士前期の2年)までで就職するのか、博士課程(前期後期の5年)まで行くのか悩んでいたから、
ひとまず進学した場合に奨学金(学振DC1)を得られるように、準備を始めた。
月額20万の、返還不要の生活費と、年額研究費200万(学会用の渡航費用など)のDC1がターゲットだ。
学振DC1の応募締め切りは、修士2年の5月末か、6月の初めだ。
そのタイミングに、国際会議の発表や、筆頭の原著論文(英文)があれば、ほかの学生に差をつけられる。
研究内容は審査員の経歴や好みもあるので、
客観評価(数値評価)となる、論文数や発表数を稼いぐの方が、安心なのだ。
さて、そのためには、【論文】を準備するのだが、
最終の論文原稿がジャーナルに受領されてから、印刷されて世に出るまでに、1ヶ月 (M2(修士2年)の4月末)
ジャーナルに投稿してから査読やリバイスにかかる時間が、2ヶ月 (M1の2月末)
論文の文章を決めて、教授に見てもらったり文章の校正をするのに、3ヶ月 (M1の12月)
実験の解析結果をグラフ化して、教員と方針を決めるのに、2ヶ月(M1の10月)
つまり、逆算すると、M1の夏には、論文に使う実験データを出しておかなければならない。
もっとも大学4年の秋や、M1の秋には、国内あるいは国際学会で発表をするだろうから、
その原稿や、そのストーリーを文章化すればいい、とも言える。
【学会発表】の件数も奨学金の評価基準になっているわけだし。
件の学生は、B4(学部の4年)の12月の国際会議に行っているので、内容はOK、
そのときに英文の予稿やポスターを作ったから、それをうまくまとめて論文として書けばいいのだが。
今年の秋は、2回目となる国際会議のほうは連名、
2回目と、3回目になるなる国内の会議のほうは、それぞれ筆頭の口頭発表にしたようだ――
【応募書類の書き方】の問題もある。
学振攻略や研究論文の書き方は、ネットや書籍であふれているので、も目にしているようだ。
そんなことをしなくても、教授や准教授が科研費やらなにやらに応募して、
その下請け(誤字脱字のチェックや、業績のリストアップ)をしていれば、嫌でも書き方を覚える。
教員たちもチェックしてくれるし、先輩でDCを持っている人がいれば、書類を見せてもらえばいい。
まあ、その辺、大学間格差や、研究室格差ができてしまう原因でもあるのだが。
学問の基本は、先手必勝である。
30代40代になってからの2歳の違いはたいしたことはないが、
中学生くらいで2年上の知識があったら優等生だし、
学部の4年と修士2年の差も、絶大だ。
が奨学金を狙うのには理由があって、親御さんが高齢だとか、実家がそれほど裕福ではないとか、
それに加えて、博士になってから就職あるのか、と、いろいろと不安もあるみたいだ。
でも、筑波大の先生も私も、彼なら就職に困ることはないと思っているので、進学を勧めたのだし、
そのための奨学金狙いなのだが、学生本人はまだ悩んでいるようだ。
十分に考えればよいと思う。
どっちつかずでうまくいかないパターンもなくはないと思うが、彼は悩みと手を動かすことが両立する。
剣士娘と同様、もしも大学に戻る気になったら、戻ってくればいいのではないかと思う。
……だから、先生(←筑波大の先生)、そんなに心配しなくて大丈夫ですよ(笑)