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医者と患者をつなぐもの (続き)

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前述の部分はオフィシャルな発言だが、
こちらは、プライベートな記事。
  
ゼブラのチビは、生まれて二か月間ほど、
某巨大大学病院のNICU(小児集中治療室)にいた。
  
それから3年の間、チビは特定医療のカードを持ち歩いていて、
頻繁に発作が起きなくなった今でも、完治しているわけではない。
身体が大きくなるのを待って、(小学校に入る前頃には)
手術を受けなければならない。
   
  http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kodomo/kosodate/josei/syoman/top/index.html
   
まず、この特定疾患の医療カードにかなり問題があって、認定された病名以外には使えない。
認定された病名のうち、複数該当していても、複合となると使えなかった(2004年時点)
  
幸いうちのチビは許可されたが
NICUで隣のベッドにいた小さな男の子は、複合疾患だったので特定疾患の医療証を手に入れられず、
ミルクも飲めないのに、食費だの外科治療費だの、かなりの額を請求されていた。
   
NICUのマナーで、他の患者と医者との会話は、極力聞かないようにしていた。
それでも、医療費のこと、治療のこと、色々大変だったのだろう、
巡回に来た担当医の前で涙ぐんでいるその子の母親(以下Sさん)をよく見かけた。

面会時間が終わって帰り道、同じ路線を使うSさんと電車に乗り合わせたことがある。
そこで、彼女に言われた。

    「○○さん (ゼブラの本名) はいいよね、先生がいろいろ説明してくれて」

その時は、冗談じゃない、と、思った。
限られた巡回時間の多くを、担当医は私の子供の治療の話ではなく、
あなたを慰めるために使ってしまっているではないか、と。

自分も不安でいっぱいだったから、Sさんの気持ちがわからないわけはなかった。
でも、私はそっけなかったと思う。

    「そうでもないよ。キーワードだけ聞いて、自分で本読んだりしてる」
    「本、先生に借りたの?」
    「病名キーワードにしてネット検索すると、参考の本がたくさん出てくるよ、あとは図書館とか」
    「インターネット、うちからは使えないし。本読んでも、私はわかんないだろうな」
    「そう......」

そのころ私は眠れなかったから、職場から借りてきた本を積み上げて、
NICUでも病名の限定できなかったチビのために、バーチャル空間の医療サイトを総ざらいしていた。
医者の説明がわからなくては、質問が出来ないから、用語くらいはクリアしておこうと思ったのだ。

わかったからと言って、安心できるわけもなく、むしろ不安になる一方だったが、
医学部には学閥の考えが重いことも(自分の職場で)知っていたから、
別の病院なら、もっと違う方法、別の解釈があるのかもしれない、
何かできるなら少しでも........という気持ちがあったと思う。
セカンドオピニオンを、自分で探り出そうとしていたようなものだ。

ナノ (百万分の1ミリ) の研究者である私に向かって、
子供の心臓は "小さい" ので患部の限定が難しいと言った医者には、
ミリやセンチの分解能で何を言ってるんだと腹が立った(←研究者モードでキレた)。
質問ついでに、三軸画像での空間把握や、放射線照射時の位置決定の方法を解説した。
若い医者の研究者魂を直撃してしまったのか、医者からの逆質問を受けた。
私を医療機器メーカーだと誤解した彼に、
可能なのならどうしてもっと早く治療機器を作らないのかと、詰め寄られたこともあった。

最後には、私たちに出来ることには限りがある、装置や器具がなければ、素手では何もできない、
新装置だって使いこなせるまでに時間がかかる、
自分たちは装置情報を組み合わせることすら十分ではない、暗くなってしまった。

本来なら、彼は患者の前(正確には、患者の母親の前)で、弱気な態度はとりたくなかったことだろう。
NICUの外で話す医者は、普段、不安で壊れそうな親たちに「大丈夫ですよ」と話しかける彼とは違った。


新薬や、新開発の装置など、どうせとんでもない医療費がかかるのだろうが、
.....それでも医者は直したいと思うのではないだろうか。
金に糸目をつけず、直すことだけに集中する医者を、非難する向きもあると思う。
それは医療とは呼べないかもしれない、単なる研究なのかもしれない。
営利目的の医療メーカーや、病院経営者に笑って利用されてしまう部類のものかもしれない。


自分のケースが標準だったとは思わない、
ただ、当時は自分の特殊性を考える余裕もなかったし、
自分にある程度科学知識があって、産休中だったから時間もあって、
    ちょうど医学部の教員だったことにも、感謝していた。

    ブログを読んでくれている人は、チビが今は走りまわっていることも、きっとご存知だろう。

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チビが退院してしばらくして、偶然、路上でSさんに会った。
           彼女の赤ちゃんは、退院できないまま亡くなったそうだ。

   「結局、私には、あの子がどうして死んじゃったかわからないんだよ」と、彼女は言った。

医者の言葉が理解できたり、病状を把握していても、心配が減るわけじゃないし、
死んでしまった理由がわかっても、悲しくなくなるわけはないんだよ、と思ったけど、とても言えなかった。 

その時、チビを連れていなくて良かったとも思った。 

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ATP ジゴシン リスモダン ラニラピット ワーファリン カテーテルアブレーション
東京大学循環器内科 慶応大学 九州 新潟........
小さな小さな心臓を手術する器具とテクニックを持った病院や医師の名前、薬の名前は、
あれから4年たってチビが普通の保育園に通っている今でも、ソラで出てくる。

出産した近くの病院の産婦人科から、ICUのある総合病院へ、それから小児循環器系を持つ大学病院へ、
何度も救急車に乗って移動したから (幸い担当医も救急車に同乗してくれたが)
今でも救急車のサイレンが聞こえると、胸がギクリとする。
       .........遺伝ではないが、心臓疾患はわたしも持っているのだ。 

この辺が、私にとっての後遺症といえば後遺症 (病気に比べると大したことじゃないね) なのだが、
………なぜ、医者も患者もこんなにコミュニケーションに苦労するのか、
装置開発と普及、利用がこれほど遅れるのか、どうしてそんな高くついてしまうのか、
疑問は、子どもに病に目先の危険が消えてからも、長らく私の中に残った。

現在、日本で医療に携わる者は医療装置のオペレートに疎く、
医療装置開発者は医学の専門家ではない。
米国では、Medical Physicist という職業があって、境界領域の仕事をしている。
なぜ、日本でそのような分業制が発達せず、医者にばかり負担を押し付けているのだろう?
逆にいえば、なぜ医者の領域に他の専門家が入っていくことを嫌うのだろう?

先日、自分が所属する物理学会で、
医学物理の研究領域や、医療物理学博士の学位をめぐるシンポジウムが行われた。
          http://www.jsmp.org/meeting/symposium080314.html

ひとまずは取っ付きやすい放射線医療から始めているようだが、
このまま立ち止まって欲しくはないものだと思う。