古き良き ---石器編---
以前、母校の工作工場が閉鎖 (正確には移転) した時の記事を書いたが、
その工場に長年勤めて、退職なさった工員さんの米寿のお祝いをするというので、
新しい工場のお披露目かたがた、パーティが行われた。
実はお披露目自体は、夏ごろにもあったらしいのだが、残念ながらその時は参加できず、
せっかくなので、本日、雨の中母校まで行ってきた。
OB会ではないが、OB会みたいなメンバーである。
すでに退職してしまった教授や職員のパーティを、
退職して何十年もたってから元の職場でするというのも変わっているかもしれない。
が、工作工場で顔を合わせていたことで、学習院大学の物理学科と化学科は仲がいい。
単純に仲がいいというのとも、違うかな、
少なくとも、学生時代は、それぞれの学部の学生が、同じクラスの様に顔見知りで、親しかったりする。
私も、物理科ばかりでなく、化学科の知り合いも山ほどいる。
Surface Science なんて、物理と化学の間の学問だから、
気楽に聞ける教授や友人がいるのは、研究者になってからもとても心強かった。
クラス会のように、なんとなく集まるチャンスを作るのは、そういった交友関係を切らないため、
といった目的も皆無ではない気がする。
今や会社の経営者や重役になっている卒業生も多いが、
弱小私学が帝大OBたちに対抗するには、彼ら以上に人脈に気を配ってきたのだろう。
どんな理由で会ったとしても、顔を合わせれば懐かしいし、楽しい。
そういうわけで、卒業生たちはおおかた、仲がいい。私もその末席に加えてもらっている。
パーティ会場は、 『目白俱楽部』、学習院大学のキャンパス内の建物の、12階で行った。
あら、出来たてのお店なんだ(笑)。 行くまで知らなかったが、料理は松本楼のもののようだ。
米寿のお祝い品と、食事代で、1万円近いから、ちょっと贅沢なパーティかもしれないが、
眺めは良いし、立食ながらサービスも良いし楽しい時間を過ごさせてもらった。
そのまま3時間ほど騒いで、2次会と称して、新しい工作工場に (苦笑)
どこからともなく酒やつまみが出てくるのは、さすが我が校の工員さんたちだ。
(私はお披露目の時こそ参加できなかったが、母校には度々仕事で行っているので、
そのたびに工場にも顔を出している)
パーティには間に合わないと言っていた、夫も、お抹茶BOYを拾って工場にやってきて、
昔世話になった工員さんたちと、懐かしそうに話していた。
図面を引いて、自分の装置を立ち上げた夫に比べると、
マニピュレータ程度しか作らなかった私の方は、工員さんたちとの縁が薄い。
飲み会は任せて、広い工場で他の参加者と酔いざましなどしながら話をした。
その参加者は、とある大学 (←学習院より大きい ) の副学長だったりする、偉い人なのだ。
曰く、
「設備資金も少ない、スタッフも少ない、教室大きいわけじゃない、
でも、この余裕のある雰囲気は、学習院特有なんだよな」
「ヨーロッパ的?」
「そう、ヨーロッパ的。 つつましくて、贅沢で」
頭を少し切り変えて、余裕の雰囲気を分析する。
「床が木材なせいと、グリーンがいたるところに飾られているから、ですかね?」
「学生が実習してるはずなのに、床がピカピカで、切子(旋盤で出来る金属のゴミ)一つ落ちてないよね」
「大事に使われてますよね、前の工場もそうだった」
「人もそうなんだろうなあ。この学校が好きな人が、ちゃんと残る」
スタッフルームから、工員さんと教授、卒業生たちが騒いでいる声が聞こえている。
工員さんたちは高校卒業後に工場で働き始めて、でも、学生・院生にとって工作技術を教えてくれる先生だ。
他の教授も、きちんと同僚 (教授仲間) として礼をつくす。 伝統的にそうらしい。
だから工員さんたちも学生を大事にするし、不可思議な実験装置を全力で作ってくれようとする。
そう言えば、在学中、モリブデンと何かを溶接したくて (溶接しにくい代表だったような)
自前の工場にその技術がないからと、全国を調べて、
それが出来る工場に、わざわざ勉強しに行って、作ってきてくれた。
教授が書いた昔の論文に、連名になっていたり、謝辞に書かれていることがあるのも当然なのだ。
うらやましそうにする副学長は、自分の学校の悩みがあるのかもしれない。
ひとまず、聞かないでおく。
「ま、旧石器時代からの伝統には、かないませんよね 」
つまり、その時代の石工屋さんらしき遺跡の後に建てられているのだ。
今は亡き、かつての化学科の教授の茶目っ気だそうだ。
ご高齢な、Hさんが疲れてしまうといけないので、通常よりは早めにお開きとなった。
「いつでも遊びに来て下さい、俺たち、まだまだいますから」
偏差値以上に、いい学校を卒業したな、と、思った。
本日の新着情報
酔い覚ましに勧められた紅茶。ハロッズのセイロンティ16番。
長い時間葉っぱを入れておいても、苦くも渋くもならなくて、美味しいです。
英国に住んでらっしゃる (一時帰国中) 先輩に、教えていただきました。