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放射線のセミナーを聞いてきました

放射線計測セミナー を聞いてきました。
一般公開とはなっていましたが、あまり一般向けではなかったし、かなり参加者も限られていて、
その結果、一般的でない講演内容になってしまっていたので、ひとまず限定記事とします。
 
仰々しいタイトルがついていましたが、原子力機構の方のご発表で、実質内容は、
「フィッショントラックを利用した、放射性粒子のパーティクル分析」 (←タイトルをつけるとしたら、こんな感じ)
 
   以下、自分で知っていること・今回のセミナーで分かった範囲のことを、粗っぽく説明します。
   自分のメモが元なので、自分が関係する分野は(特に)いい加減に書いてあるかもしれません。
   ご興味のある方は、書きこんであるURLなどを参考になさってください。
 


この研究の目的は、環境試料中(水中や大気中の塵、その辺に降り積もったの埃など)の
ごくごく微量な化学物質を検出することにあります。
化学物質は、ウラン、プルトニウムなどの放射性元素も当然含まれていて、
ウランや、プルトニウムに関して、ピコグラム(0.000000000001g)、
フェムトグラム(0.000000000000000001g)の単位での分析を行います。
IAEA主導で世界に数ヵ所のみの施設が所有する、Environmental sample analysys という分析手法
なのだそうです。 (えらくブロードな命名だと思うのですけどね )
 
  保障措置環境試料分析技術……とかなんとか、 http://clwww.tokai-sc.jaea.go.jp/safeguards.php
  にもある通り、間違った分析結果を出すと国際紛争にもダイレクトにつながるため、
  手かせ足かせ状態で、試料もIAEAがつけてくる試料番号だけで、「どこから採取したものか聞かないでね」、
  という状態で分析を行うらしです。
 
イメージ 1
 
 
さて、これまで、元素分析の研究では、
SIMS(乱暴に言うと、真空中で試料の表面に高エネルギーのイオンをぶつけて壊し、
壊れて飛んできた原子の重さをくらべて、これは○○である、と、知る方法)や、
TIMS(壊してたものを見るのは同じだが、試料を温めて表面原子を蒸発させ、それを検出して○○である、
と知る方法) 等があり、主にウランの検出が行われてきた。
試料の形状も、これまではバルク試料(ある程度の大きさのある物)で、それを全部溶かし、
(溶かすのは、炭化→数種類の酸で分解→イオン化→イオン交換→etc と、実際には山ほどのプロセス)、
それを試料として分析にかけ、平均化した値を検出する方法だった。
見落としがないとされ、絶対量の測定に適しているが、
とんでもなく時間がかかるし、溶かしていない所は測定にかからない。
そして次に、検出した放射性物質同位体割合を測定する事によって、発生源を同定する。

  例えば天然ウランと濃縮ウランでは、質量数235のウランと、238のウランの比率が違うので、
  天然であるか核施設であるか、あるいは 未申告活動であるかが判別できるのだ。
 
さて、今回のセミナーで報告されたフィッショントラック法は、パーティクル(埃である微粒子)のいくつかのうち、
放射性元素を含んでいるものだけを選んでから、SIMS,TIMS分析、同位体比率を測定、というものである。
 
   狙い撃ちタイプとでもいえばいいのか………。
   いかに狙いうちをうまくやるか、といった試行錯誤の発表だったと言っていいかもしれない。
 
イメージ 2
まず、何段階ものフィルター(ポリカーボネイト)をつけた  
ミニ掃除機みたいなもので、埃を吸い集める。
粗い目のフィルターから、細かい目のフィルターへと連続的に通し、
それぞれのフィルターから埃を集めることで、
塵の粒系がコントロールできる。
次に、それぞれのポリカーボネイトフィルターを、
ポリマーのフィルム(←?雲母?樹脂膜?)に押し付けると、
埃がフィルム側に移る。 
この時点で、埃は非常に小さいので目に見えていない。
 
 
こいつを原子炉に持って行って中性子線を当てる。(←研究に使用できる原子炉がないので、施設が少ない)
中性子線にあたった放射性物質は、核分裂を誘発され(←誘導核分裂
放射線を放出、その結果、フィルムの中に放射線の飛跡(track)が残る。
鉱物を用いて、年代測定に使用される、フィッショントラック法の応用である。
                        http://www.atomin.go.jp/reference/radiation/usage/index02.html
無害な埃は、相変わらず見えないが、放射性物質を含んでいる埃の場所には、トラックが現れるので、
それを光顕微鏡で見つけて、その部分だけカッターで切り分け、ピンセットでつまみ、
SIMSなりTIMSなりの同位体分析にかければいい
従来のフィッショントラックは、鉱物を削りながら見るので、トラックの形から推測することしかできなかったが、
可視光が透過するフィルムの中の埃の場合は、フィルムの一部だけ切りとるのに適している。
イメージ 3
 
   ちなみに天然ウランのフィッショントラックが1~数μなのに対し、
   天然以外の濃縮ウランのトラックは、
   右のような   ガビガビのお星さまみたいになっていた。
   http://jolisfukyu.tokai-sc.jaea.go.jp/fukyu/tayu/ACT05J/Frame0901.htm
 
 
  #メイン部分だけしか記述しなかったので、少々。
  #この研究ではパーティクルの分析をしているが、放射能を含んでいるパーティクルが
  #分析室に送られていなかったらどうなるのかとか、
  #測定や採取に漏れたものがあるのではないかという疑問があると思う。
  #このような微量分析の前には、広範囲にわたってX線によるスクリーニング(簡易分析)を行っている。
  #また、ひとまず乱暴に分析して、そのあとでウランとピークの重なる鉛酸化物の効果を取り除くとか、
  #分解能と感度を両方あげることはできないから、分解能を下げて感度だけ高くしておいて、
  #疑わしい試料だけを分析にかけるとか、…………色々と細かなテクニックはあるようです。
 


なんとなく、発表者は研究者ではなく、職人さんだなあ、という気がしました。
(部外者ではどこが改良点なのかわからない)詳細なテクニックと改良の積み重ねの報告でした。
発表者が外国の方なのに、英語ではなく日本語で発表したので、多少聞きにくい部分もありました。
  (英語の方が聞きやすいものの、異分野の人や省庁関係者が入っている時は仕方ないですね)
質疑応答が始まると、研究者ならではの回答をしてくださいましたが、
普段は、IAEAから送られた試料について、依頼された通りの分析を、期限以内にするのが仕事であり、
それをいかに遂行するかがミッションである、と、話していたところを見ると、
原子力関係の研究機関は、そういう運命なのかもしれません。 

損得勘定や、危機に対する感情、政治カラーをなくして初めて、冷静な分析が出来るのかもしれませんが、
結論付けが非常に機械的で、また、機械的であるがゆえに、他の分野や一般社会との乖離があり、
根本的な基礎研究を押さえこまれているような気もしました。

でも、その結果が、特定の利用環境と、利用線量での医療放射線の研究や(←厚労省ならOKです)、
原子力のお金を使いつつ、たんぱく質シミュレーションだの、半導体の絶縁破壊の研究をやっても構わない、
みたいな、歪んだ原子力予算に繋がっているのかもしれない、と、思います。(←文科省預かりの金の場合です)
また、原子力施設を使わなければ、事故などで放出された放射性物質の分析が出来ないというのも、
皮肉と言えば皮肉だなあ、と思いました。
 
実際の講演には、テストサンプルの分析結果と、その判定結果が出ていて、
それが福島原発由来のプルトニウムjなのか、
フォールアウト (昔の核実験の時の残りで、成層圏を回っていたのが降ってくる)の物質なのかを、
同位体比率から判別したデータもありましたが、
IAEAからのお達しなのか、同位体比率は公表されていないもののようなので、ここでも記述を控えます。
              (公表されていないと言いながらも、比較した、っていう発表でした………笑)
 

 
ついでのように、一連の放射線報道について、私見ですが……
 
医療系・バイオ系の方々が、レントゲンなどに利用する放射線の延長上に原発があるのに対し、
原子力や物理系の研究者には、原爆や破壊兵器の(逆)延長上に原発があります。
また、医療系バイオ系の方々は、線量自体を問題にしますが、
物理系は、無意識のうちに線種やその半減期を考えます。
例えば私は、ヨウ素に関しては、水を汲み置きすればいいや、と思っていたのに、
人間が体内で濃縮してしまうストロンチウムに関しては少量でも怯えました。

関係するメーリングリストなどで、震災からこれまでの間に、放射線の人体に対する効果について、
私と同様の物理系出身の研究者と、生物系の研究者が真摯にディスカッションする様子を見せてもらい、
齟齬や把握違いの発生、その後の知識共有、と、議論の様子を傍観していました。
発言するのは大御所の方たちでしたが、TVなどの討論会でよく出てくる言い回しのような、
「貴方は○○を知らないに違いない、だからそんなことを言う(考える)のだろう」 という不毛な発言
(他人の知識量や思考を推測する時点で、科学的思考ではないし、不毛ですよね)を一切せず、
知識とその出典、信ぴょう性、その上で議論を積み上げていく様子に、少し感激しました。
 
  相手が学生ならば、勉強不足だと思うこともありますし、また思ってもいいかもしれませんが、
  相手が研究者ならば、何か報告を読んだ後に、それを採用しない理由を持っている場合があるし、
  「その理由を聞きそびれちゃうのは、研究者として損でしょ」、だそうです(笑)。
 
そうやってメーリングリスト的には傍観していた結果、ある所は危機感を持ったり、ある所は安心したりしました。
必要なのはディベートも罵りでもなく、感情的に悲観する事でもなく、無意味に楽観する事でもなく
事実を把握し、対策することなのですよね。
 
  #唐突ですが、安全神話という言葉について、中学生の娘は、
  #神話というのは、「そう思っておきなさい、と言われていて、なんとなく反論してはいけないもの」 
  #なので、冷静になったら崩れて当然、もともと破綻している、
  #誰も、「日本列島が神様が海をかき回して作ったものだとは思わないでしょ」 だ、そうです。
  #剣道オタクのくせに、いつから、あんなにシニカルだったんだろう? 
 
現在の放射線量を考えれば、何も知らずにフォールアウトを被っていた時代に比べれば、ずっと少ないですし、
少なくとも私の居住範囲では、気にしなくて良い程度のものである気がします。
ただし、β崩壊を検出するすべは手持ちがありませんし、(←生データがとれないと不安なのです)
だからストロンチウムに関しては、政府の発表を待つしかありません。
   (パテントを申請しているグループを知っているので、ブレイクスルーがあるかもしれませんが)
プルトニウム等に比べて放出量は少ないので、だからストロンチウムからの直接被曝を恐れる人はいません。
でも、体内蓄積を考えると、あまり軽視してはいけない気が(今でも)します。
放出されたストロンチウムの総量(積分値)と、分散範囲(世界地図上と高度の三次元)でもわかれば、
最終的に小魚・大魚経由で人間の口に入って濃縮される総ストロンチウム量(>>内部被曝量)が
計算できるような気もしますが……
計算結果が出るまで、小魚を食べるのはケアさせておこうかな、と、思ってます。
          (数年もすれば、広く薄く分布するでしょうから、これも気にならなくなると思います)
 
 
                  計算屋さん、誰かやってくれないかな。 ←結局、最後に他力本願。