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(名古屋)親の悩みと脳の使い方

名古屋のセミナーに行ってきました。
参加者は、私のような研究所に軸足を置く研究者、企業研究者、大学教授、まあ、いろいろです。
少なくとも全員、客員教授などのポジションは持っているので、教育・指導についての悩みは共通してます。

彼らと知り合ったころの小学生や赤ちゃん(お抹茶BOYは生まれていませんでした)だった子供たちが、
高校生になったり、大学生、一部は就職したり、という年齢になっています。
研究内容で激論を飛ばしたあとには、家族の話もするので、お互いの子供の年齢を知っています。

奥様と、子供の進路についての話が合わない、と、嘆いている先生がいました。
奥様は大学関係者や研究者ではありませんが、息子さんに大学院進学を希望しているのだそうです。
息子さんが彼のように大学や研究所で、研究者になるのだと信じているのだそうです。

彼曰く、それは難しい、と。

私も、もし、娘が研究者(理系)になりたいと言ったら反対すると思います。



研究に向いている頭の使い方が得意な人と、そうでない人がいるように思います。
単に頭が良い悪い、とは違うのですが、頭の良し悪しといわれることもあります。

<点>
理系であっても文系であっても、大学入試までは記憶力の良い人が有利です。
記憶力ではなく思考力の入試問題もありますが、解き方パターンをすべて覚えてくるツワモノがいます。
対応する解き方を、すべて教えてしまう予備校もあります。(←悪いとは言いません)
記憶の数だけ、問題が解けるようになる、と、思っていても(一時近似的には)いいかもしれません。
大学に入ると、全部覚えるのは量的に難しくなるのがわかっているから、入試問題を作る側も
(覚えていなくても)その場で考えて解いてくれる学生を選ぶような問題を考えます。
が、それがうまく作れていないので、合格したものの大学1年で「うああああ」と、なる学生がいるのです。

<線>
記憶しているそれぞれの点を、つなげる力があります。
意識無意識にかかわらず、人間は普段からそれを使っていると思います。
  1.寒波の天気予報
    2.目的地は坂道が多い
      3.夜間移動(結露するかも)    →→ 滑りにくい靴を履いていこう
場所と時間と天気予報という三つの記憶(情報)をもとに、靴の決定をするわけです。
頭の中でどのくらい速く関連付けの線を引けるか、必要なもを結びつけられるかが思考の速さです。
これはもちろん、 
  「○○地方にお出かけの方、足元にお気をつけてください」 
というアナウンスを聞いたのを覚えていてもいいわけですし、経験則でもカバーできます。
だから、日本全国の○○地方のアナウンサーの言葉を覚えておけば、自分で判断しなくてもOKです。
雪の日に同じ場所にいった経験がある場合もOKです。
点が多ければ多いほど線を引く手間が省けますし、線引きが速ければ点が少なくても速く決定が出ます。
だから、すばらしく記憶力 “だけ” いい人、関係付け “だけ” うまい人でも、頭のいい人と思われます。
ですが大学や大学院で研究ベースになればなるほど、最先端となり、点 の数(情報数)は少なくなります。
記憶力がいくらよくても、記憶すべき情報があまりないのです。
経験のないところに突っ込んでいくのが研究ですから、経験もなくなります。
その結果、関連付けの線の引き方のと速さの重要性が増してきて、それ以外ではついていけなくなるのです。

<選択>
大学はテキストやノート持ち込みの試験も多いです。大学院なんてもっとです。
実社会だってそうです。調べられるなら調べて対応すればいい。何を調べてもいい。
でも、何を調べ、何を信じて採用するかが問題です。
研究分野だと有名なテキストがあります。それを信じれば間違いない……とは限りません。
科学は日々進んでいるので、有名なテキストよりも、新しく出てきた情報のほうが有益なことも多いです。
ただ、新しい情報は間違っていることもあるので、情報ソースやその内容から、
信じる信じない、記憶の<点>として採用するしない、を選択する必要があるのです。
嘘を教えない受験予備校や、間違ったら謝罪するニュースとの、大きな違いです。

<判断>
「これっ」と思うものが複数出てくる場合があります。数学なら、複数解っていうやつです(←違うよ)。
靴の滑り難さを優先するとこっちだけど、雨に変わるなら長靴タイプのほうがいいかしら? という状況です。
両方持っていく、滑り止めのバンドで代用する、新しい靴を買う、というのも選択肢でしょう。
研究でも、複数の可能性があって、実験すればわかりそうな時に、
両方の実験をやってみる、代用する(他のデータから推測)、
新しい研究プロジェクトをたてて考え直すなど、いろんなアプローチがあります。
判断は、その時々のポジションや予算の有無で変わってきますが、
どの方向性で動くかの判断が上手な人が、大学職員や研究者として成功する気がします。
大学や就職してから学んでいくことかもしれませんし
判断はボスに任せて、自分は自分の担当の中の仕事をするのも職業選択の一つかもしれません。

<目的>
上では判断や方向性という書き方をしましたが、仕事には目的があります。
目的は偉大なほうがいいけれど、偉大すぎては届かないし、何をしていいかわからない。
目的の方向に、可能な限り最大限の歩幅で動けるような、
そんな頭の使い方が、きっと大切になのでしょう。



研究者同士の会話は、普段から会話内容のトビがたくさんあります。
どこに進んでいくかわからないときすらあります。
それぞれに先入観が少なくて、経過の延長の会話ではなく、思考の歩幅が大きいからです。
わからなかったとき、一瞬考えるとつながることもあるし、相手に聞いてみると説明してもらえます。
だから、“何かについて”会話しているときには、可能性がたくさん出て、
可能性をつぶしたり残したり、話がどんどん進みます。 研究者にはそれが必要だ、と彼は言います。

彼のお子さんは、まじめで、地道に勉強する人だそうです。
成績も悪くないようで、父親と同じ名門大学に進学しています。
でも、応用でちょっとでもトリッキーな解き方が必要な問題は解くことができず、
それを 「これはやったことがないからなあ」 と、勉強不足を悔しがるタイプだったそうです。
大学入試まではいいです、大学院入試もパスするでしょう、
でも、「研究向きじゃないんだよね」

大学院卒業者の人口が増え、高学歴プアや、ホームレス博士の話が報道されます。

地道でまじめに、一つの事を根気よく続ける人が研究者になれたのは、10年から15年位前まででしょうか。
それだって、日本国内限定だったのですが、今では海外に出る研究者、海外から来る研究者が多く、
情報量も15年前とは比べ物にならない (=ジャーナルの数が増えている) ので、
その中で速い速度で必要なものと不要なものを区別していく能力が必要になります。
いらない物はバサバサ切り捨て、必要なものだけを、要領よくピックアップできる人だけが、
研究者として就職できている気がします。

学位を持った上で、本人が向いている開発アシスタントの仕事を喜んでできればいいです。
でも、たいていの人はできません。
学位を持っていればプロジェクトリーダーや教授こそが花形だと思ってしまうし、
なにより大学の教授たちがそのように指導してしまう……アカデミックポジションにこだわってしまう。 

   米国の大学では実力や向き不向きの判断を自分でするのが当たり前で、転職が容易ですし、
   ヨーロッパなら、大学よりも企業の給与が良い、というアカデミック以外の魅力があります。
   研究よりも、開発などの応用が企業の収益に直結するからです。
   でも、日本が変わるのは5年10年では無理かと思います。

少なくとも彼の奥様と息子さんは、大学院に行って、大学教授になることに魅力を感じてしまっている。
将来を見据える息子さん本人が、他の研究者志望の学生と自分の比較ができればいいのだけど、
並外れた努力と記憶力で、他の学生よりも試験の成績が良いから、なおさら悩むことになる。
「向いてない、って言うと、息子はふさぎこむし、オクサンは激怒しちゃうしさあ」

大学で大勢の学生を見てきた上での冷徹な判断と、
本人に任せるしかないんだよね、という経験的諦めと、
それでも、化けてくれたらうれしいな、と言う希望と。

記憶力である程度はうまくいく分野もあるだろうし、行き詰まるまでは本人がやるしかないんじゃない?
二十歳過ぎて親が進路を決めるわけにもいかないんだし。
     (知識が十分あれば、学生に教えるのが専門の大学教員になら適しているように見えますが、
       選んで学んでいかなければ、一瞬で古くなってしまいます。だから、行き詰まる……)

頭ではわかっているけれど、自分の子供となると、どうしても悩みの多くなる我々です。



……明日は息子の、中学入試です。
推薦内定(?)は貰っているので、形式的なものですが、
録画アニメを見ている彼には、「前日なんだから少しは勉強すべきことがあるだろっ」 と、思います。

なお、息子は勉強しないし、成績も良くないけど、娘よりは研究者向きかもしれない、と、思います。
点(記憶)がないにもほどがある、と、ならないよう、もう少しやってくれないかなあ。