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大学生・大学院生の悩み、ってさ

毒含みなので内緒にしたほうがいいのかな。
自分の分野の考えで、一方的に書いているので、うちの分野では、ということで。

先日、某有名女子大で
『悩みを抱えた学生にどう接したらよいか』
というセミナーを聞いてきた。

私のところに広告が入った様子から見ても、
『悩みを抱えた女子大生に、同性の先輩としてどう接したらよいか』
というセミナーなのはわかっていた。

日本でもドイツでも、女の大学教授は少ない。
なので、女子大学院生が悩みを抱えているときなど、
仲の良い男性教授から「うちの学生の相談に乗ってやってくれないか」という話が来るときがある。
前に書いたな、これとかこれみたいな感じだ。

講演はお茶の水女子大学の副学長をなさって、現在は他の大学の理事をしてらっしゃる方だった。
理系ではなく、文系寄りの心理学の先生だったようだ。


「大学に就職するなら学長になるつもりで、企業に就職するなら社長になるつもりで」  
    う~ん、男女ともにそういう気概で就職してくださいというのは、全面賛成はしないが、まあいいだろう。

「女性研究者の特殊性を踏まえて、ライフコースへの心構えをすることが大切」  

「もっともクリエイティブな時期に、結婚や出産と言うことが重なるので、研究者としての軌道を見据えて」 

「一人前になる時期に、両親義両親4人の老いを見取る、と言う仕事が……」  ????

「難題山積の現実を弁えず、今の時期をふわふわと過ごすと、中途半端で鼻柱だけ強い存在になってしまう」


・・・・・・・・・ちゃうやろ。


いつの時代の人なんだ?
言いたいことはわかるが、彼らが抱える難題はそれじゃないだろ。

働いている配偶者に自分の親の面倒を見させる男が今日びどこにいる?
結婚して義理親の介護なんて考えて就職を決める人間が、今の時代、どこにいる?

就職先を見つけるだけで精一杯なのと違うか?
今の大学生、少なくとも大学院に行くかどうか考えてる学生が、
将来、結婚するとか子供生むとか、そういうイメージと大学院進学をぶつけて悩んでるわけじゃないだろ。
少なくとも、私が相談に乗った学生たちは、男女の性別を問わず
ちゃんと就職ができだろうか、とか、自分で研究者の世界でついていけるだろうか、とか、
そのときに、男女差別があって女であることがマイナスにならないだろうか、なんてことだった。

女性活躍なんチャラ、の話が政府から出て来て、
テレビでも省庁発信コメントでも、託児所だの育児だの、あるいは介護やそっちばかりに話題がいくから、
その方向性で話をしようとしていたのかもしれないけどさ。


私の知る限り、女子学生は、結婚の申し込みを受けていた約一名以外、
結婚とか子供とか、そういうものは “ひとまずない状態” で、大学院進学や就職を悩み、考えていたと思う。
生涯結婚しない男女が半数近くいる現在、結婚した後で困る状況をイメージしろと言っても無理だ。
研究者になって生涯研究をしていきたい、と考えている20代前半の学生が、
結婚後の子育や、まして夫の親と自分の親の4人分の介護まで、
就職前から(就職という大きな悩みを差し押さえてまで)深刻に思えるわけないじゃん。

また、講演者は幼児教育の本を出版されたようで、
とにかく5歳まではほめて育てましょう、と盛んに言ってらしたが、
大学生や大学院生の抱える問題と、教員に相談してくる話は、そこではない。

首をかしげていたオーディエンスがいっぱいいたんだけどなあ、
もう、わかんなくなっちゃってるのかなあ―――
理想論としては、将来のことを考えて悩んでほしいけれど、
そのレベルで悩む学生は、ほとんどいないんじゃないのかなあ。
考えるのはいいけど、むしろ、そのレベルまで考えて悩んじゃうのって、
目先の問題に目の行かない頭でっかちなんじゃないかなあ。

   *と、思っている様子の人が多いからって、私を指名してコメントさせるなよ
   *当たり障りのないことを言って、フォローしたけど……
                  (いや、だからまた「誰か助けて」状態で司会に指名されるのもわかってるんだけどもね)


女子大って、こういう時代錯誤な教授やお偉いさんが多いのかな。 大変そうだ……




その辺はともかくとして。
単なるデータとして、興味深いのを出してくださっていた。

1990年に始まった大学院重点化政策
これからは専門的知識を身につけた人材が必要だから、大学院の定員を大幅増してください、
そのために、学部の教員で大学院を兼務していい、学部から大学院への進学率が25%を目標ね。
それでどうなったかと言うと、1991年には10万人だった大学院生が、
2012年には26万人になっていた(文科省「学校基本調査」)

ただ、その大学院生のその後がどうかと言うと、博士課程修了者の就職率は、5割弱。
                      (この5割だって、もちろんアカデミックポジション以外を含めて、だ。)
それ以外は塾の講師やらアルバイトやらの、不安定雇用が多くなった。

そもそも、日本の企業は博士号の価値を認めず、新卒で年功序列
「博士修了者はコミュニケーション力がない」、「頭でっかちで視野が狭く使えない」、
「年を食っているので物覚えが悪く扱いづらい」、と、敬遠される。
企業の言いたいことは良くわかる、日本人の博士号取得者で、そういう人は確かに多いからね。

そんなこんなで、日本企業の博士号取得者割合は4%程度だ。(参考までに、英国では18%)

なお、日本の博士号取得者は1000万人当たり131人。 (英国では285人)
修士号取得者は1000万人当たり586人。(英国では3116人)
そういうほかの国に比べて、学位取得者が少ないって言うことも、大学院重点化政策の理由だったかと。
この辺の生データは面白かった。


でもさ、日本の企業って、年功序列じゃん? 終身雇用っぽいじゃん? 
給料横並びで、多くの日本人が安定志向じゃん?
「私は学位を持っていて仕事ができるから、高い給料を出せ」って、企業に交渉できないんだよね。
それに、もし仮に企業がそういう人を就職させても、今度は簡単にレイオフできないんだよね。
学位を持っていたからといって、給料が高いわけではない、
学位を持っている給料が高い人が仕事をしなかったからといって、解雇できない。
そういう社会情勢では、学位を持って企業を目指すメリットはなくなってしまう。

講演者は 「きちんとした論文を書けば就職はついてくる」 と、話した。 
冗談じゃない。いつの時代だ。


大学・大学院の先生方はもっと問題だ。
教授側に、博士号取得者のもっとも正しい就職先は、研究所や大学など
アカデミックポジションであるという固定観念があり、それ以外を落ちこぼれ扱いする。
そういう指導をしない大学も増えてきたけど、そう指導してくれるのは、旧帝大クラスの教授がほとんどで、
田舎の大学教授になればなるほど、「博士号」が特別であるという思い入れから、
「大学への就職こそ、博士の正しい道」と考えて、学生にもその考えを浸透させてしまう。
そういう学生に限って、専門性にも思い入れがあって、
「自分の専門は××です。それ以外の仕事はしません」 なんていい始めてしまう。

馬鹿をいってはいけない、理系知識は年25%ずつ価値が下がり、
新たな勉強をしなかったら、数年でゼロになる。
学位論文の価値など、そのときの専門性の価値など、すぐになくなる。
結局、専門にこだわる博士号取得者は、企業の言うとおり、扱いにくいだけの使えない人になる。

それがわかっていながら進学を勧める大学が何を考えているかと言うと、
今大学にいる教授たちの食い扶持確保だ。
学生が定員割れしたら、運営費が下がる、スタッフ数が少なくなる。自分の職がなくなる。
だから、本来大学院に行くべきでない学生にまで、進学を勧めてしまったりする。
で、いざ学生になってしまったら、ちゃんと学位を出さないと、指導をしていないことになってしまうから、
いわゆるところてん方式とやらで学位を乱発する。

………悪循環だよね。



学生が本当に気にしなければいけないのは、博士号をとった後の、この就職率の悪さだと思う。
男子学生でも、女子学生でもそれは同じだ。

そういう就職活動に打ち勝っていくには――――それこそ大学名ではなくて、
大学の先生から、どういうことを教えてもらったか、になるのだけどね。

一つのことをコツコツとやるのもいいけれど、
むしろ余所見をしまくって、いろんなことを調べる、視野を広くする。
自分の仕事の応用分野や発展分野を常に考えて仕事をする。
流されるタイプの学生が案外うまく仕事を獲得していくのは、
流れるだけあって、世の中の流行りに従っているからだ。
発展・応用分野を考えるまでもなく、世の中の流れに従って仕事ができたりする。

また、働き始めたら、一人のボスの下で仕事をしてても、
もう一段階上の人が何を考えているのかを推測するのがいい、とも聞く。
ボスとは違う目標を必ず一つ以上持つ(隠し持つ)―――
5年後に役立つ仕事と、10年後に役立つ仕事、自分のライフワーク、常に3つくらい持っておいて、
その仕事の配分、心の置き方の配分を自分で決め、自分を営業する。

研究は、みんなで力を合わせて、っていう、農耕的ではないんだよね。
そういう個々が一時的に共闘して、何かをなしえることがあるからこそ、共同研究が楽しいんだけども、さ。




研究職は楽しい。絶対に楽しい。
自分がそれに向いていれば、最高だと思う。
ちゃんと就職して、自分の研究室をもてるのは50%くらいだけど、
好きな仕事だったらやってみれば? と、思う。

そんな勧め方しか、我々はできないんじゃないかな。