選ぶパターン・選ばれるパターンを考える
美容院にいってきた。
この1年くらい隔週くらいで同じ美容院に行っているから、比較的良いお客さんなんではないかと思う。
明日の成人式前で、忙しそうだったが、それでも時間の隙間に予約を受けてくれた。
前髪の長さや、カットの仕方で、美容師さんは私の予定を推測する。
「明日イベントがあるから、ちょうどいい長さに切って」
「一月くらい来れないから、短めでお願いします」
「年配の女性のいるパーティだから、とにかくおとなしく見えるような髪形で」 などなど。
和装の髪型アレンジを教えてくれるのも彼女だ。
「パーティだから、少し華やか目にしたいのだけど、普段、夜会巻きばかりだから」
結局、そのときは早めにセットしてもらって、パーティに参加した。
洋服に合わせる前に、目的に合わせて、髪形や化粧を変える私を、美容師さんは面白い、という。
●選ばれようとする話●
その美容師さんに相談したことはないが、
就職して10年くらいは、とにかく落ち着いて年上に見える化粧を目指していた。
予算を勝ち取るためには、若さは邪魔でしかなかった。
落ち着いて、信用されるためには、一歳でも年上に見えるほうが良かった。
あいにく私のプレゼンテーションは
「何でそんなに初々しく喋っちまうんだよ」
と、何度も苦言された。
でも、材料系の大御所だった上司は、私を部下にして何年か後に、理解してくれた。
私の専門、理学部物理系(略して理物)の研究は、10年先、30年先に世の中に役立つ研究を目指す。
実証は難しいので、いかにそれが有用か、自分が研究がすばらしいか、将来の夢を語る。
一方、上司のいた材料系研究分野はせいぜい5年後、現在必要なものを開発する追い詰められた分野だ、
「お前さんみたいに、興味の赴くままに研究してます、って言うのが、理物なんだな」
その言葉通り、物理系の資金を獲得しようとするときに、私を送り出すようになった。
お互いを利用しあって、成功率は、まずまず。
事前に審査員を調べ、そのメンバーに伝わるようなプレゼンの仕方を考えたり、
髪を長くしておくほうが、オジサン社会に置いていろいろと都合がいいということを学んだ。
プレゼンや会議のときは、自分の発言に重みを出すために少しでも年上を演じ、
懇親会やパーティのときは、若々しくあれ、美しくあれ、って……どうしろっていうんだよ、
「公務員ってめんどくせー」 とか、思ってた。 まあ、勉強にはなったな、ものすごく。
研究内容は変わらない。その上で、相手が何を求めているか、どういう風に発言をすればいいか、
その時の自分のポジションとして、どの攻め方が適しているか、もう、ゲームの攻略本だよな。
その対策が、良いか悪いのか分からない。
そんなことにかまける時間があったら、もっと真摯に研究をしろ、成果を出せという考え方も当然あるだろう。
その後、期限付きで人事採用部門に出向し、採用面接をしまくったので、
(当時の職場は年4回採用審査があった。すべて英語の面談なので、ほぼ100%立ち会った)
その時の経験もそれ以降の自分の面接姿勢を変えた気がする。これも、勉強になったと、ひたすら思う。
そういえば、中部にいる元同僚が、関東に帰ってきたくていろんな研究所・大学に応募するのだが、
いまいち押しが弱いように見られたり、専門が狭いように見られたりして、決まらない。
同じ時期に戻ろうとしていた奥さんが、さくっと地方公務員に採用されてしまって、
彼は単身赴任という形で置き去りにされるようだ。 ……年賀状で吼えていた。
才能のある研究者で、学生指導も上手いんだけどな。
彼なんて、面接のテクニックをちょっと変えれば、いくらでも採用されると思うんだけども。
●選ぶほうの立場になる●
ポストク研究員(プロジェクト型研究の雇用期限付きの研究スタッフ)や、アシスタントの事務員を選ぶとき、
この人はアピールの仕方を間違ってるんじゃないかな、と思うことがある。
たとえばポスドクの場合、その人の年齢によって、同じ発言が別の意味を持つようになる。
一般的に研究者の採用面接は、プレゼンと質疑応答(面接)で
プレゼン前半が自分がこれまでやってきた仕事の成果報告、
プレゼン後半が、将来その職場に行ってからやることの説明だ。
質疑応答の面接状態まで含めて、これが一次審査となる。
その後、もう一回、相手メンバーを変えた面接(企業で言う、重役面接)がある。
小型の大学だと、前者の審査だけで終わる場合もある。
20代か30代はじめなら、分野に限らず自由な発想を持ち、我が強い人に魅力がある。
自分の経験や考え方をうまく話せる人が好印象を残す。
成果プレゼンと面接の会話を一致させていて良い。
若者を採用したら、職場側が教育しなければならないのは当然で、だから教えやすい、学んでくれる人を選ぶ。
自己主張をしてくれる人のほうが理解の度合いが分かりやすく、こちらも教えやすい。
30代後半から40代だったら、面接で自己主張が強かったり、自分の経験を話す奴は選ばない。
この世代で自己主張が激しいのは面倒な人でしかなく、経験があるのは当前で、職場は即戦力を求める。
物覚えも若者より悪いとみなされているからから職場は教育する気はない。
プレゼン前半で経験を話したら、後半~面接時には雇用者の要求にいかに応えられるかをアピールするべきだ。
そのものずばりの同じ研究をしていたのならともかく、
経験ばかり話すのは、私は対応力がないです、これまでの延長しかできません、と言っているようなものだ。
応募者のやりたいことではなく、雇用側の要求する仕事ができるかどうかが、採用の決め手なのだが、
自分をアピールすることに夢中で、相手を観察・研究する手間をかけない――そんな人が、少なからずいる。
年齢に限らず、正しいアピールができる人とできない人がいる。
なお一部の研究室出身の学生・研究者は全員面接が得意だったり。 いい教育を受けたんだろうな、と思う。
アシスタントさん、事務員のアルバイトさんたちも同様だ。
去年まで最前線にいたのならともかく、昔取った杵柄は、時として新しいことの邪魔になる。
特定作業Aを求人しているのに、それ以外のBの経験ならあります、というアピールは最悪だ。
けんか売ってるのか? と、思うことすらある。
AとBの関係が分かっていない、時として無関係なのに、何なのだこの人は、と思う。
Aに一致していないなら、あれこれ沢山やっていたから、何にでも対応できます、と伝えるしかない。
ポスドクではなく、女性たちも年齢によって受ける印象が違う。
自分だけ若見えしていると思い込んだ若作りは論外としても、若く見えるのがマイナスの場合も多々ある。
20代ならともかく、35でも45でも雇う側は似たようなものだ。
(研究所だからかもしれないが)コミュニケーション能力が高い人よりも、仕事の能力を選ぶ。
どんなに人当たりのいい美人でも、 TOEFLの点数にはかなわない。
まして、自分探しだの、スキルアップだの、自分の都合を話すのは論外だ。
雑談をしているのではない、仕事をさせる人を選ぼうとしてるんだ、ということが分からない。
どうしてもこの職が欲しい、自分は大変なんだという大変アピールも良し悪しだ。
大変な人よりは余裕のある人のほうが時間の自由度が高くて、よく働いてくれるかな、と、雇う側は思う。
** 自治体でシッターさんを探そうとしたときに、もっと金銭的な大変さや、時間の大変さを主張しないと、
** シッター派遣の優先順位が下がる、と、指摘された。
** 確かにそうだね、職場の育児支援も大変な人から支援する。
** 自治体へアピールの癖がついちゃって、採用面接まで引きずっちゃうのかな。
……まあ、要はいかに相手に都合のいい人を演じるかってことなんだと思う。
そう思い込まれて採用されて、後で無理が生じない程度に。
ブロ友さんで、求職活動をしていた人がいた。
自分研き云々ではなく、仕事を仕事と突き放して割り切る冷静さ、クールさがあって、
サバサバしていそうなのに、その実、とても細かいところに気がついて、時として気に病んだりもしていた。
ブログに綴っているくらいだから、演じているわけではなく、根っから仕事向きの性質なんだろう。
それ以上に特技があって、特技を生かした仕事に就いたらすごいだろうな、と期待していたのだが、
お子さんたちが小さいから、フルタイムの仕事は狙わなかったんだろうな。
変な言い方だが、手先に器用さやその辺のものを使った工作の得意さは、
アレンジや対応力に長けている指標でもあると思う。
住んでいるところが遠いから、うちの研究所で採用できるはずもないけど、
ああいう人が近くにいないかなあ、と、密かに思ってる。
美容院の帰りに、ジェイワークスのチョコレートを買ってきた。