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(創作) 龍の玉

                                      

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ゆっくりと車が降ってきて 二人死んだ
一人は引き上げられたが 一人は水の底に残った 


 残ったヒトに問うてみた  ………死にたくて死んだのか?…………

   思いがけず言葉が返った  ………違うよ



水に棲み 雲を動かし 雨を呼ぶ ―――それは倭の龍だそうだ
倭の龍は鱗に覆われた長い胴体を持ち 足がある ―――確かに姿は似ていなくもない
たが龍達の寿命を聞いてみたら 知らないと言われた 
想像上の生物だから と   ―――では それなら我等は何なのだろう?
 

若い男に見えるよ と ヒトが言った
     ヒトと同じように胴体があり 手足があって 青い服を着ているのだそうだ
     そして 偶に 魚のように光る と


ワタシは何に見える? と ヒトが聞いた 
     ふやけて腐って 魚に啄まれていると答えると 既に無いはずの眼で睨んだ


ヒトの想像の力は龍のそれよりも強いから 
眷属に引き揚げられて光に曝されるまで ヒトはヒトの好きな姿で居られる
水が揺らいで骨が透ける以外 陸にいるヒトと同じ姿になっている

     身近に見るヒトは獣たちより柔らかそうで 魚たちより暖かそうだ


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ヒトは役に立たないことを沢山知っていた
暖かい水は上に行き 冷たい水は底に残る

水面より水の底の方が温かいと言うと  そうだね と 笑った
               氷は浮くでしょう? それはね

死んで浮くヒトと 死んで沈むヒトがいる  何故だ?
            答えがなかった 答えたくないのかもしれない
            ヒトはここにいる だから深く考えることもない
 


ある日
大きな波のある海の そのはるか向こうの陸に 貝殻でできた白い砂があるという
白い月と 白い砂 赤い魚 青い魚 そして強い強い日差しがあるという

ヒトが言う 
ねえ 昔の龍のように風に乗って 雲に乗って 一緒に白い海を見に行こうよ


古の龍は雲を操ることが出来たかもしれぬが 私が空を駆けることはない 
私にできることは 静かな空に 少しだけ雲を動かして 龍の形を描くくらいだ
それも........風が吹けば すぐに消えてしまう  雨も降らぬ

ヒトの世界の言い伝えでは 湖の龍は毎年の雨と引き換えに 生贄の娘を求めたそうだ
ヒトは魚を喰らうから 龍はヒトを喰らうのかもしれないと ヒトは言った

            でも わたし 生贄じゃないからね?


龍はヒトを食べない
ヒトや獣や魚がものを喰らう姿を 浅ましいと思う
だから 古の龍がヒトの娘を何に使ったのか知らない
美しい娘を湖に落とすことで 雨が降ったのかどうか 私は知らない
ヒトも知らないらしい

            水の底で たくさん話した
            たくさん話して たくさん考えて でも 何もしない

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湖に 花が降る

湖には咲かない白い花束が 水面に漂って やがて落ちた
地上のヒトが湖に投げるのだ

湖底のヒトはそれを見上げ 手をのばす
そんなとき 骨が透けた

骨はヒトよりも悲しそうだった
ヒトが陸に戻ってしまいそうで厭だったので 頭骨をもいだ




龍が死ぬのを知っている
東の湖にいた無口な龍を 永遠だと思っていたが
木の葉が色づく頃に動かなくなって 木の実が大樹になるころに 湖底に溶けた

もっと簡単にヒトは死ぬ
もっと速くヒトは溶ける
だから どれだけ強いヒトの想いも いつかは消える

花が降るたび薄くなって
娘の姿をしていたヒトも 頭骨のほかは見つからなくなってしまった




    南の白い砂の海に行きたいと言った
    願いをかなえてやることはできなかった 

    だからせめて龍の形の雲を 南に向かう柔らかな風に乗せた


    ヒトの頭骨を咥えさせると   それはちょうど 古の龍の玉に見えた


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         (写真は拾いものや、いただきもの画像を、フチなど少しアレンジしたものです)