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読書録  『R.P.G.』

読書録、集英社文庫 宮部みゆき 『R.P.G.』 休日出勤途中に読了。

購入したまま積んであった文庫本で、読んでいなかったものを持ち歩いていた。
(積んでた理由になるが) 宮部作品は江戸のさりげない推理物などはともかく、
『理由』 『模倣犯』など、(ドロリとした悪意が絡むような) 現代小説はあまりいただけない。 

しかし、この小説を読み始めてすぐに、
この作者は人間の性格や習性を一言で伝えるのが、なんと巧みだったのだろう、と、感激した。
彼女の小説に、登場人物を紹介するためのストレートな説明文はない。
それなのに、彼らの立場と性格が、映画の画面を見ているように読者に伝わってくる。
つまり、「優しい」 とか 「おっとり」 しているとか、「気まじめ」 であることばかりでなく、
「今焦っている」 とか 「不安に思っている」 とかが、言外に伝わってくるのだ。
それは会話の間を作ることだったり、少女の方に手を乗せるタイミングだったり、
携帯メールの文面を叩くの指先と、視線の巡らせ方だったり。

  アニメ映画の冒頭シーンは、こういうテクニックをうまく使っている場合が多い。
  有名どころでは 『風の谷のナウシカ』 の冒頭部分で、
  ナウシカが小さな狐みたいな動物に指を噛まれるシーンがあるのだが、
  そこで彼女が痛みを堪えて噛ませたまま、静かに動物に語りかけ、
  動物の興奮を鎮め、自分になつかせてしまう。
  ナウシカは 「大丈夫、恐くない… 怖くない」と、動物に語りかけるだけである。
  でも、この1シーンだけで、彼女が優しいこと、痛みに強いこと、
  人や動物の心をつかむことに長けているらしいことが、観客に伝わる。 
  私はひねくれた観客なので、「演出も脚本も、上手いよな~」 と思うわけだ。

宮部みゆきの作品も、それに通じる部分がある。
あまりこういった表現が得意でないらしい誉田哲也の作品を読んだ後だったので、
なおさらそう思ったのかもしれないが、そりゃあもう、見事なものなのだ。

ところが、『R.P.G.』、ストーリーのほうは...........(涙)
いや、こういったPCやネットがらみのお話は、古くなっちゃうのが早いから、
書き下ろした時点ではおもしろかったのかもしれないけど。

<あらすじ:反転しないと見えないので、これから小説を読みたい人はパスしてください>
女が殺され、別の日別のところで男が殺される。彼らが愛人関係にあったことで、調査が進み、
男のPCに残っていたバーチャル家族の存在が明らかになる。
殺された男の、ネット上に存在していた妻、息子、そして高校生の娘。
父親役と娘役はひたすら、おままごとの理想的な家族ごっこがしたくて、母親役のハイミスは、オフ会を通して、父親役とリアルで付き合いたくなる。はじめから遊び気分で参加していた兄役は、疑似家族がばかばかしくなって、距離を取ろうとする。
そんな中でその父親役の男が殺され、子供役たちはオフ会の時の様子から母親を疑う。
PCに残ったメール類から、割り出され、取調室に集められたバーチャル家族は、それぞれに弱く、醜悪だ。
醜悪は醜悪なのだが、ありふれているというか、こういう人いるよね、と、
今やあまりに知られ過ぎていて、新鮮さもないし、醜悪さも薄れるのだ。

犯人は(被害者の実の)娘で、大した悪意があったわけでもなくて、発作的な犯行だったわけだが、
父親がバーチャルのごっこ遊びを実際の娘にまで投影できると思ってしまったというのも、ありがちだし、
家族を大事にしない父親がバーチャル家族で遊んでいると知って娘が怒る気持ちもわからないではないが、
今やバーチャル家族やバーチャルライフを楽しむ人が当たり前すぎて、
(バーチャル家族を知ったところで) 殺意を抱くまでの怒りには結び付けるのは無理があるように思う。
オフ会をしたことによって、その表面的な容姿や物腰などで、抜け駆けをしようとするものが出たり、
かつてのスタンスをキープできなくなったり………というのも、
今やよく知られていて (ドラマでも使い古されていて)、警察が犯人探しに思い悩むまでもないはずだ。

この小説の世界観が通用したのは、ネットが普及して、
一方で、人間の感性がネットの普及に追いついていかなかった、ほんの数年だけだったような気がする。
そういう意味では、この作品は気の毒である。

また、警察の中で閑職に追いやられている警察官たち、というエクスキューズはあるものの、
何人もの警察官が、一人の犯人へのおとり捜査のために、何日も時間を費やす、というのが
なんとなく不自然でリアリティに欠けるような気がする。

つまり........小説のストーリーとしては、思いっきりイマイチなのだ。

作家の人たちには、すごく失礼な言い方かもしれないけど、
誉田哲也原案、宮部みゆき演出・脚本..... なんていう小説、出ないかなあ。 と、つい、思いました。

まあ、SFもそうですが、賞味期限の短い小説もありますわな。
ということで、さらさら読めますし、遊びとしてのネットに親しんでない人には楽しめるかもしれませんが、
それほどお勧めしません。