(創作)HOSHI★MIGAKI
別に不服があるわけじゃないが、オレの仕事の地味さと言ったら、なかなか類を見ないと思う。
大抵は、リタイアした爺さんの仕事だ、それが体力的に可能かどうかはさておき。
地味だとはいっても、けっこうハードなのだ。
オレの仕事は、星を磨くことだ。
それも、惑星とか月とか、でかい奴じゃない。
きらきらしている、遠くにあるとされている恒星だ。
アンタレスとか、スピカとか、あのあたりの一等星が一番つらい。 毎日必ず磨かなきゃならないから。
来る日も来る日も、それこそ、星の数ほどある星を、一つ一つ磨くんだ。
星磨きは、オレの他にも、何人かいるらしい。 目立たないから、会ったことはないけど。
3等級4等級5等級、どこまで磨くかは、その日の体調と、根気次第。オレの前任者の爺さんは、等級の低い星も、心をこめてきちんと磨かなきゃいけない、と言っていた。
天の川なんて、ザルで掬ってまとめ洗いすりゃあいいんじゃないかと思ってたんだが、
そうすると元の位置が分からなくなって、地上にいる連中が大騒ぎするんだそうだ。
ふえ~ 細かいね、奴ら。
でも、明るい星は明るいなりに、暗い星は暗いなりに、大きさが違うだけだから、
どれもきちんと磨かなきゃならないな、ってのは、この頃なんとなくわかってきた。
時にはさ、月や惑星の満ち欠けをコントロールしたり、
彗星みたいに華々しい星を、動かしてみたいと思うこともあるさ。
だけど、なんていうのかな、持って生まれた分ってもんがあって、
ん? 星が光るかどうかは、雲や空気の汚れのせいだって?
オレには等級の低い星を、羽毛布で磨いているのが一番いいような気がしてるんだ。
甘い、甘い。
オレたちがサボってたら、どんなに空気が澄んだ夜でも、星は輝かないのさ。
惑星班が、忙しくなったんだそうだ。 模様が変わったり、並ぶ順が変わったり。
部署変更の打診が来た。
1000年も前だったら、オレは喜んで惑星運びをやったかもしれない。
でも、なんか、嫌だったんだよな。
暇な仕事をしてるんだから、こっちを手伝え、というのは、違うんじゃないかと思うんだ。
星磨きは、単純作業に見えるけど、何も考えずにできるもんじゃない。
だいたい、惑星班の連中はエリートで、宙を支配しているのは自分らだって自負心が、いつもチラチラするんだ。
今更、奴らに使われるのは嫌だ。 いや、奴らが好きとか嫌いだとかってことじゃなく。
他の星磨きたちも、そんな答えだったんじゃないかな。
オレたちが二つ返事で引き受けなかったのが、気に入らなかったらしい。
大した仕事でもないんだろう、と、やつら、経費削減を言い渡してきた。
一体どうしろって言うんだ、磨き粉も、羽毛布も、今だってぎりぎりなのに。
頑張ろうとした星磨きも、いると聞いた。 シャツの裾で、磨いてみたり。 でも。
最後の羽毛布が、ボロボロになって、使いものにならなくなった時、
ちょうど
流星群が、やってきたんだ。
磨き粉の空瓶、羽毛布の切れ端を、丁寧に机に置いて、
オレはポン、と、流星群に飛び乗った。
嘘だと思うんなら、夜空、見てみろよ。
このごろ、星がくすんだと思わないか?
蜃気楼さんの記事で取り上げられてましたが、
惑星のサイズ比較のYoutube画像です。教材としても、よさそうだけど、
音楽の選び方が、個人的にツボです。
実はオリジナルではありません、多分。
小学生にもならない小さな子供の頃、異国の絵本で読んだものです。
星みがきは、青い服を着た小さなお姫様で、姉王女や、兄王子が、大きな星を動かしていました。
青い服の小さなお姫様は、全然目立たない仕事なのに、毎日一生懸命星を磨いています。
でも、確か、ラストシーンは、宮殿にいるのが嫌になって、流れ星に乗って、どこかに行ってしまうのです。
座布団くらいのサイズの、☆型に乗って宙を流れて行くお姫様の絵が、目に残ってます。
内容もアバウトにしか覚えていないし、タイトルもわからない、
いつか再会したいと思って、いろんな国の書店で探すのですが、いまだに見つかりません。
時々、輝きの足りない星を見上げては、絵本のお姫様を思いだして、
南の宙を懐かしんだりしているのです。