読書録 『完全・犯罪』
映画を見ながら、小説を読むというのも変なんですけどね。
新幹線の中で読んでいた小説を、『ダイハード』を観ながら読み切りました。
小林泰三のホラーというかSFというか、どっちにしても比較的気に入っている作家なのだが、
この短編集の中の、タイムトラベルもの、「完全・犯罪」 は、特に大好き。
タイムパラドックスに真っ向からけんかを売って、正面からいちゃもんをつけて、
それでいながら、時間の進む速度という、妙にフィジックスっぽい(主人公たちの)悩みなども出てくる。
悩もうと思えば本格SFとしていくらでも悩めるネタなのに、
最後の、「だから、後っていつだよ」 という落語風に突き放したオチも効いている。 傑作★
ところが、この短編集、冒頭の「完全・犯罪」と、ラストの「ドッキリチューブ」以外はパンチが弱い。
もともと、オリエンタル風というかアジア的というか、ハリウッドではないスプラッタを描く作家なので、
この作品群もその方向性で、派手さが無くてドロドロしたアジアンな世界観ではあるのだが。
ドロドロの中に、人間の悪意や愚かさがたくさん含まれていて、
「ドッキリチューブ」でその含有率が最大になる。
#ドロドロの中から、悪意や愚かさを綺麗に抜いて、
#ホラーともSFとも言えない不思議な作品になっていたのが
#『玩具修理者』 だったのではないかと思う。 あれは傑作だったなあ★
ま、この短編集も好きな人にはたまらないだろう。
小林作品としては、まあまあ佳作、ってレベルかな。
好き嫌いは別れるだろうが、私としてはお勧め。