荻原浩という作家の文庫は、よく書店に平積みされていて、そこそこ人気もあるようだったのだが、
また、幽霊話を書く人だというのも知っていたのだが、なぜか食指が動かなくて、読んだのはこれが初めてだ。
今回購入したのは、表紙がいかにも“ホラーっぽかった”からだと思う。
私は日本の怪談風のホラーがあまり好きではないのだが、例外として人形物怪談は好きだ。
ビスクドールでも蝋人形でもお雛様でもからくり人形でもいいので、単に人形が好きなのだと思う。
短編集なので、それぞれの短編から受ける印象は違う。
Gentle Goast (悪さをしない幽霊)の話が何編かと、人間の悪意をメインにしたブラックなのがいくつか。
悪さをしない幽霊話の方が、好きなストーリーが多かった。
『・・・・・・』 (ネタバレになるのでタイトルは入れない)
幽霊が、奥さんや友達を追いかけまわし、でも、ネコ以外の誰からも見てもらえなくて、
「完全無欠のストーカーだ」と、自嘲するところなんか、おかしさと悲しさのバランスが絶妙だ。
表題作の 『押入れのちよ』 も、おかしくて、悲しい。
ほろっとする、でもベタベタはしない、いい話を作るなあ、と、思う。
柔らかいエンディングも、日本人形みたいな幽霊の顔立ちが、“全然可愛くない”のもいい。
なんとなく、隣のトトロを思い出す、それでもちゃんと怖い 『木下闇』 も好きだ。
人外のものの、さりげない好意を描くのがうまいのだろう、と、思う。
それに比べて、皮肉なものとか、悪意メインの作品はB級ドラマみたいでイマイチかなあ。
でも、『押入れのちよ』 と 『木下闇』 だけでも、読む価値があるかも。