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読書録 『狼と兎のゲーム』

講談社文庫 安孫子武丸 『狼と兎のゲーム』 、病院待合室で読了。

 Bookデータベースよりあらすじ
    2年前に母が失踪して以来、小学5年生の心澄望と弟の甲斐亜は父・茂雄の暴行を受け続けていた。
    夏休みのある日、庭で穴を掘る茂雄の傍らに甲斐亜の死体が。目撃した心澄望とクラスメートの智樹を、
    茂雄が追う!死に物狂いで逃げる彼らを襲う数々のアクシデント!!
    茂雄が警察官であるゆえ、警察も頼れない二人の運命は―。そして待っていたのは、恐怖と驚愕の結末!!

意外だったが、衝撃ではない………


昔、新本格推理小説が流行った頃、大勢出てきた作家さんの一人だ。
人間関係を軽くしておいて、トリックの新規性や複雑さを競う、作家たちだったと思う。

彼らの文体の特徴として、名文ではないが分かりやすく読みやすい、シンプル、
描写は多くないものの、何が推理ネタになるかわからないので、しかもそれを読者に隠そうとするので、
何となく文章の雰囲気変わったな、なんて思って読んでいると、だまされる……と言う傾向があった。

その中でも、この作品も読みやすい。
特に子供が主人公(「ぼく」主格の文章)になっていて、
そうでない章についても、狂人(?)主格なので、単純である。

いくらでも深みを追求できる設定だったにもかかわらず、やっぱり兄弟愛や、友人間の感情は描かれていない。
かといって、トリックが面白かったかと言うと、今回はトリックらしいものはない。
現実に似たような事件が起きちゃっているからかもしれないが、すべて想像の範囲に収まってしまっている。

サクッと読むための本と考えれば、時間の無駄というほどではなかったが、イマイチかなあ……


もっとも、そのサクサク感が、現実に起きている事件でも動機が単純だったり、動機すらなかったり、
「逆らわれたのでイラついて殺した」、「考えるのが面倒だから放置した」、
なんていう犯罪者の言葉と一致してそうだ。
それに、犯罪者の子供が、(普段親の被害にあっていながら)親と同じように暴力を振るうようになり、
親と同じように物事を考えなくなっていく、というのも、現実にありそうで気の毒な話だ。

そういう意味では、軽くてシンプルな話に、安孫子が描ける重厚感を潜めてあるのかもしれない。


でも、人間関係に重みがない(人間の重みを描かない)なら、乙一みたいな方がいいな。
参考までに、安孫子武丸は 『殺戮に至る病』 や 『かまいたちの夜』 など、
それなりに重みがあったり、どんでん返しが綺麗に決まる作品も書いているので、
(期待度が高くなっちゃってて) 損をしたかな、と、思います。