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読書録 『日暮らし』

講談社文庫  『日暮らし』  宮部みゆき  飛行機の中で読了。

5年くらい前に読んだ 『ぼんくら』 の続編。


まともなあらすじはどこにでも出ているので、私的なまとめ方をすると、
あまりぱっとしないけれど、心の中に正義は持っている江戸の同心、平四朗と、
頭はよいけれど性格が少し変わっている美少年の弓之介、
人間レコーダーみたいなおでこの3人がメインの探偵役となって、
金持の我がままと痴情の縺れに巻き込まれて不幸になる人々を、ささやかながら救う話。
 犯人を引き出すことが目的ではなく、まして犯罪者をつるしあげることが目的でもなく、
 わからないままの方がよければ、真相を隠したまま目をつむり、
 正しくないと分かっていても権力の前に、耐えなければならない。
 そんな時代背景の中でも、自分の立場で、精いっぱい頑張って生きていくという…… 

   ぜんぜん好意的な感想に聞こえないが、でも、好きなんですよ、宮部みゆきの時代もの。


複雑な事件と偶然が絡み合って、解決不能 (事件解決ではなく小説としての収拾不可能) と見える状態を、
一つ一つのピースをはめ込むように、綺麗にまとめていくのは、さすが、と思う。
細かな伏線を、一話完結風の短編にちちばめて置いて、終盤でパズルのように嵌めていきながら、
それを単に名探偵の 「さて、読者のみなさん......」 風のゲームにせず、お話の流れのままに、
少し悲しく、温かくまとめていっている。

そういうわけで、宮部みゆきストーリーテラーとしての才能のある人だと思うのだが、
その一方で、悪人 (犯罪者という意味ではない) が書けない人なのだろうなあ、と、思っている。 

彼女の描く悪人には 魅力がない....... と、思う。

だから、私が彼女の作品で気にいるのは、悪人不在の社会問題のような小説か、(← 『火車』 など)
殺人事件などで人の死なない(← 『返事はいらない』 『パーフェクトブルー』 など)
悪人不在の小説が多い。

悪人不在で、殺人事件がないと、サスペンスとしてはおとなしくなってしまうのだが、
その点、時代ものならば、人の力で物事を解決するしかなく (無機的な科学捜査でなく、考える時間が長い)、
殺人事件が起きやすく (殺人と言うかどうかはともかく、生死をかけた人の恨みつらみが不自然ではない)
身分制度がしっかりしているので、人を書き分けやすい..... 
                江戸時代は、彼女の作風にぴったりだと思うのだ。
彼女の作るキャラクターで一番魅力的な、市井の頑張ってる人達も、多く出てくるし、
悪人は蚊帳の向こうで、何を考えているのかわからない状態で放っておけるし。

『ぼんくら』 も悪人 (犯罪者の意味) が、身分違いや権力の差によって、
市井の場にいる主人公たちが知らない別の世界 (作者も描かない場) に隔離されていることを許されるから
理不尽だったり、理解できなかったりする状態で存在するまま、話をまとめてしまえたのだと思う。

『ぼんくら』 でそれを成功させていたから、
『日暮らし』 はその続編で、同じメンバーが出てくると聞いたので、
下手に悪人を書きこまれても、ヤダなあ、と思っていたのだが、その辺はセーフ。

相変わらず、メインの話は、江戸の豪商の、正妻と愛人と子供達とかがグチャグチャする話なので
素材的にはあまり興味を持てないはずなのに、
やっぱり文章力と、ちりばめたサイドストーリーで最後まで読まされてしまった。

弁当屋さんの話が好きです (^_^)

宮部の他の時代ものにも、いなりずしを作る屋台のおじさんが出てきて、
(本筋は覚えていないのに)とても印象に残っているのだが、
あれは、どの話だったんだろう?

普段の小説の好みとは違うはずなんだけど、
宮部作品に関しては、そういう、さりげなさが好きなんだろうなあ.....