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読書録 『RYU』 --宮古上布と龍--


ネタバレに当たることを感想に書いてしまうかもしれない。
ただ、そうであっても、この小説が面白いことには変わりないと思う。
柴田哲孝の小説を読んでいたら、この結末は予測できるだろうと思うから。

イメージ 1

読み終わってまず、沖縄の宮古上布と言う反物を見たいと思って、ググった。
                           http://motto-okinawa.com/kana-exhibit2.html
ぞくりと来た。 はからずも、那覇宮古上布を見た有賀と同じ感覚を味わえたわけだ。


沖縄に、龍が出る。
超常現象を扱う雑誌から、ライターの有賀とカメラマンのコリンの手元に、龍と思しき写真が届く。
被害者となった米軍兵の恋人や、沖縄の住人、米軍の伍長と共に、
有賀とコリンが、そして有賀のパートナーであるジャックが龍を追う。

バリバリのエンターテイメントだ(笑)

しかし、『KAPPA』 の時も思ったが、いかに荒唐無稽な話でも、彼の小説の運びには無理がない。
  感想文  http://blogs.yahoo.co.jp/green_zebra_2008/23828700.html

また、捻くれて悲観的な落伍者的アウトローでも、浮ついた中高生でもない主人公が超常現を追う系小説は、
ともすれば、人間の行動 (演出と言うのか?) 自体に無理があると思うことも多いのだが、
毎度のことながら彼の作品は圧倒的な説得力で、エンディングまで運んでもらえる。

主人公の動きの “ちょうど良さ加減” は、有賀のモデルが作者本人であることに起因しているかもしれない。

説得力と言えば、有賀がどこかにインタビューに行って決定的なヒントを得て、
その場では大した情報が文章化されてなくても........

   #有賀が大きなヒントを得て、何かを思い当たったことはわかるが、読者に内容は知らされない。
   #横溝の金田一耕介が、犯人の出生地に行って、集めてくる情報みたいなもんだw

そのあと彼が反芻するシーンで、読者にわかりやすく、いろんな情報を足して無理なく伝えてもらえる。

   #金田一さんのように、「犯人はお前だ」の時点で彼だけ知っている情報が出てくるわけじゃない

いろんな意味で、これはフェア、かつ、テクニカルな小説の書き方ではないかと思うのだ。


    インタビューを受けている何者かが、キーとなる一言を言ったとする。
    その一言がどんな意味を持っているか、というのは、読者には説明込みでなければわからない。
    例をあげると、有賀は 「沖縄に鍾乳洞がたくさんある」 と聞いて衝撃を受け、
    龍の隠れ家に思い当たるのだが、
    インタビュー時点で、鍾乳洞と聞いた (読んだ) としても、読者である私はピンとこない。

    廊下や衣服に残っていた白い粉や、鍾乳洞の温度が地上と違って、冬場も一定だということ、
    鍾乳洞なら地下で民家の傍までつながっている可能性もあること、
    言われてみれば確かにそうだが、私にはキーワード一つで思い当たることはできない。
    インタビューの合間に、有賀の思考でいちいち説明をされたら、ペースが乱れるし、
    説明的すぎて胡散臭くなるだろう。

    有賀は後から、例えば酒を飲みながらだったり風呂に入りながら、
    自分の考えをゆっくり反芻する。
    読者として、とても流れに乗りやすい。
    一方、名探偵の御手洗潔さんなどは、考えをまとめる間もなく真犯人にいたってしまうので、
    読者が彼の思考のフォローするためには、現場にいながら状況がつかめきれない石岡くんと言う
    ちょっとおバカちゃんな相棒が必要なのだ。
    
    つまり、有賀はとても読者に都合の良いレベルの探偵役だと言えるだろう。


ああ.....そういう観点に置いてみると、ハリウッド映画的と言えるかもしれない。
ハリウッドヒーローたちは、体力があっても頭脳は普通の時が多い。 
悩んで考えて、シンプルで、観客が彼の苦悩に同調しやすい。

柴田作品にもう少し色気 (ロマンスシーン) があったら、そのまますぐにハリウッド映画なのかもね。


なお、宮古上布はとても高価な織物だそうだ。
私は紬や、このような色味の和服はそれほど好みでないのだが (将来的にはわからない)、
光沢のある宮古上布は、さぞ美しいだろうと思う。

小説の中では、龍が (宮古上布の) 着物を纏っていた、という老人の表現があって、
ド派手な琉球びんがたの振袖を、羽織って、はためかせて、空に登る龍を思い描いた。

結局、イメージは違ったのだが、鮮やかで、美しくて、しばらく頭の中に残ってしまった。