ブログ引越し検討中 (仮住まい)

yahooブログからの引越しを検討中です。現在テスト使用中。

読書録 『TENGU』

柴田哲孝 『TENGU』 祥伝社文庫 読了
 
1974年秋、群馬県の寒村で起こった凄惨な連続殺人事件は、いったい何者の仕業だったのか?
70年代の世界情勢、さらに2001年9.11米同時多発テロ事件にまで連関する壮大なミステリー!
                              内容(「MARC」データベースより)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4396632681/monocolle-22/ref=nosim

イメージ 1


やっと文庫になったぁ~♪ というわけで購入。 一気に読みました。

まず、文句なく面白かったです。

『RYU』の時の感想に、「色気が足りない」 と書いたのだが、それもクリアーしてるし。
   RYUの感想    http://blogs.yahoo.co.jp/green_zebra_2008/27192927.html

以下、思いっきりネタばらしになります。 読もうと思っている人はケアしてください。


基本的に、「RYU」 と同じ話だったりする w
米軍が持ってたUMAが、何らかの理由でコントロール不可能な状態になって、事件を起こし、
で、それを取材に行った主人公が、真相を解明する、という.....パターン。

こう書いてしまうと身も蓋もないが、
それでもそこはキャラクターが魅力的で、UMAも魅力的な柴田作品なのでOK。
主人公の道平は、典型的かつ身勝手なジャーナリストなのだが、
そもそもそれをロマンと見なしてついていけなくては柴田作品は成立しないから、
この話的にはOKと言うしかない。
  
道平が千鶴の家にはじめて泊めてもらうシーンが好きだ。
千鶴の母親と、道平のかつての相棒である刑事が、1世代前のカップルだとしたら、
二人の間にはそれぞれの連れ子同士のような連帯感と、温かさがある。
 
後に道平と千鶴が男と女になっていく過程も無理がない。
女性たちは、ある意味男の理想系みたいにステロタイプであるとも言えるが、
一部の本格小説、ハードボイルド小説のように、そんな女いないだろ......と脱力するほどではない。

村社会の身勝手さとおぞましさ、加えて科学者の身勝手さとおぞましさが双璧になって、
盲目の美女、彩恵子の一生を翻弄する。
私は小説の中盤まで、彩恵子は確かに綺麗で可哀そうだけど、頭の弱いだけの女だ、と、思っていたのだが、
天狗を助けに炎の中に戻ろうとするシーンや、彼女が復讐を企てたとわかるシーンで
一気に存在がリアル、かつ生き生きとしてくる。

amazon などの感想を見ると、(彩恵子に関しては) あまりにも女性の人権を無視した設定だから、
女性にはウケないだろうとか、引いてしまったというものもあったが、
ジャーナリストとして、他国の人種差別や、下層女性の扱いをみてきた筆者にしてみれば
それほど抵抗を感じずにこのストーリーにしたのだろうという気もする。

 #ちなみに私は、過疎の村の男たちには吐き気を覚えるが、
 #科学者の残酷さのほうには目をつぶってしまうかもしれない、という気もした。


世界情勢だの 9.11 テロだのを無理に絡める必要はなかったのではないかと思う。
ベトナム戦争は話の本筋に絡むのでともかく、9.11 テロに関しては必然性が全く見えない。
作者はジャーナリストでもあるから、米国批判のくだりともども、書きたかったのだろうが、
ない方がすっきりしたのではないかと思う。
あと、後半、ボーマンの告白ですべての謎解きをするのも、ちょっと物足りないかな。

そうはいっても、ボーマンの告白は、ラストシーンに続くためには、ある程度必要な気もする。
ラストシーンは、秀逸だ。 
この後ボーマンと道平は、全力でロバートを守るのだろうということが予測できる。
それが彩恵子への餞になるのだろうなあ......と、最終頁の次のページに思いを馳せられる小説でした。


ただ....

    私は道平よりも、『KAPPA』 や 『RYU』 の有賀の方が好きです(笑)



なお、冒頭の画像は、木村祥刀という方の切絵です。
天狗画像の中で一番美しかったので、下記のHPからいただきました。
                    http://yuanryan.ld.infoseek.co.jp/index.html