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読書録 『結晶は生きている』

読書だなんて言うと、叱られそうな感じだな。
結晶工学と結晶成長の専門書です。
ライブラリ物理の世界 『結晶は生きている ― その成長と形の変化のしくみ』 
                                         黒田登志雄著  サイエンス社 
               https://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/%8D%95%93c%93o%8Eu%97Y/list.html
 
高密度の水の存在可能性と、氷について調べていて、手にするチャンスを得た。
縦書きの読みやすい専門書だったので、電車の中でサラサラと読んだ。
最新のトピックこそないが、結晶と結晶成長を体系的に把握するには、とても良い本だ。
 
 
                  
                                                                                                        CRACKERS#3
 
「水」 「自己組織化」 「臨界」 「表面」 「界面」 
キーワードはすべて今の私の研究に通じる。
お名前と著作をググると、この本をバイブルのように読んでいる方たちのHPに行きつく。
どこの人なのかなあ、研究者っぽいけど.....などと、同じ本を読んだであろう研究者たちのページを眺める。
 
最近私は、研究分野を少し広げようかと思っている。キーワードは水だ。

例えば、古代の気候や大気成分を、その時代の氷に閉じ込められた気体成分から知る手法がある。
地層のように、氷の積み重なりが、その時代の大気を反映しているというわけだ。
                       http://www.seppyo.org/~polar/term/term.htm
他人の研究にいちゃもんをつけるわけではないが、
すでに発表されている論文を、表面反応や吸着を専門にする者の目で見ると、まだまだ研究の余地がある。
定性的にはいいだろうが、定量的に大気成分を論じるには足りないような気がするのだ。
 
分かりやすい説明になるかどうか知らないが、
長いスカートをはいて、草原を歩くとする。イメージ 1
1時間歩いて、スカートについた草などを調べたら、
センダングサが8割と、
    ツワブキの葉が少々くっついていた」
だから、
「草原にはセンダングサが8割、
          ツワブキその他が2割生えている」 
と言うのは無茶である。    
なぜなら、センダングサにはトゲがあり、
洋服へのつき方が他の植物より激しいからだ。
決して人のスカートには触れないような、
地を這うような植物もある。
     
飽和や速度論的な話も出てくる。
いちばんくっつきやすいツワブキ
一面にくっついてしまうと、
それ以上歩いても、もうツワブキはつく余地がない。
(図中Aのの状態)
    
   それでもその辺をうろつき続けると、
   Bの図ような小さい三角の種子▼が、
   隙間を見つけてくっついてくる。
    
いくら長く草原に居て、長い時間動き回っても
隙間が十分でない、
大きな赤い五角形の種子は付けないのだ。
(C参照) 
      
こんな風な効果を考えて行くと、
氷に融け込んだり、
くっついたまま地中に残った成分から、
融け込む度合い、融け込む速度、逃げる度合い、
そんなものを考慮に入れながら、
古代の大気を知るのはなかなか難しい。
 
 
数年も前だろうか、国際企業の米国支社の方とのお話で、水が出てきた。
「地表の7割を占める水、その研究がもっと盛んになってもいいとは思わないか?」
その方のご専門はあまりにも我々とかけ離れていたので聞き流していたのだが、  (←失礼な奴)
「 (肩書を見て) 偉いんですね~」 というどうでもいいような言葉に、 (←やっぱり失礼な奴)
「冗談じゃない、系列に、俺より偉いのが........(数えたらしい) 6人もいる」 
と返ってきた台詞が妙に子どもっぽく、驕っていないくせに上ばかり目指しているようで、
「ごめんなさい」 と、謝罪しつつも笑ってしまった。
で、そんな人が言ったのセリフの一つとして、記憶に残ったままになった。
      水の研究........ねえ。
その後各国でいくつかプロジェクトが走ったことをみると、
さすが産業界で突っ走っている方である、重箱の研究者とは、アンテナの広げ方が違うのである。
 


 
以前北海道大学の低温研究室へ訪問した記事を書いたが、
この頃からだったかな、少し水に興味を持ったのは。
          http://blogs.yahoo.co.jp/green_zebra_2008/19999723.html
         何だこの、グルメ記事 orz   働いてきたんです、仕事だったんです、と一応言っておこう。
黒田先生も、北海道大学の低温研究室にいらした雪の研究者だ。 
残念ながら、お会いしたことはない。
ちょうど私が研究者になったころ、鬼籍に入られた。

学部の学生の頃、黒田先生のお話は聞いていた。若くて、人付き合いがよくて、とても優秀な研究者だと。
同期での中で、黒田先生が一番先に教授になったという話を伺ったのは、
黒田先生と同じ高校、大学、そして同じくドイツ (これは別の大学) で学位を取得され、
その頃、別の大学の助教授をなさっていたG先生からだ。
 
共同研究の打ち合わせに訪れたG先生の研究室で、(共同研究のネタとは違うものの)、
自分の研究に参考になりそうな本だと手にとって眺め、書名とISBNをメモしようとしていたら、
「もう1冊あるから、やるよ」 と、新しい 『結晶は生きている』 を、渡してくださった。
G先生 (すでに教授) のご専門とは違うはずだから、お友達の黒田先生にいただいたのだろう、と思った。
 
帰路の電車と、その晩であらかた読み終わり、やっと最終頁の近くに挟んであった古いレシートを見つけた。
東大生協………… 同じ本が6冊のレシート。黒田先生が亡くなったよりあとの日付だった。
 
G先生はきっと、私達に黒田先生を紹介したかったんだろうな。
.
                            質問をしてみたかったな、と思いながら、本棚に立てた。

      (しばらく前に書いてあったのを、バスの待ち時間にアップ。 しろねこさーん、小説でなくてごめんね)