ブログ引越し検討中 (仮住まい)

yahooブログからの引越しを検討中です。現在テスト使用中。

謹呈 GALE様  (自作のフィクションです)

           ショートショートっぽいものを、書き下ろしてみました。 
           もっとも古い友人の一人であるあなたに。
                                      2010 04 30 @  

 
年に一度、涼しく乾燥した日を選んで、書庫の素描や古文書を虫干しする。
ドライエリアに並べたテーブルが、古い和紙でいっぱいになる。
 
名画が展示されている本館は空調や換気が完璧で、作品が大切に管理されてされているが、バックヤードの倉庫はそうはいかない。半地下の倉庫には、先代、先先代の学芸員が集めた美術品が積み上がり、一つ一つを把握するのすら難しくなっている。
 
ただでさえ、美術館の運営は厳しい。
ルーブルの油絵でも来ていればいざ知らず、普段の常展示室はガラガラだ。
給料だって、もう5年近く据え置き、いや、解雇されないだけましなのかもしれない。
 
だが、100年以上前に描かれた絵画は、我々美術館員の苦労など知るはずもなく、
がらりと広い屋外で、ガラスのペーパーウェイトを載せられて、
そよそよと流れる春風に無防備な墨色を曝していた。
                                       
イメージ 1
 
虫干しの日にだけ、目にできる絵がある。
 
江戸末期のものらしい直筆の日本画で、浮世絵としては写実的で、生々しい。
木版の下絵に、墨と藍で色付けしただけのものだから、版元を通ってすらいないのだろう、落款もない。
当然、作者は不詳である。
 
   細く冷たそうな雨だ。 
   傘の下に隠れて、藍の和服姿が二つ。
   静けさの中に緊張感を持つそれは、密談する男二人のように見える。
   だが、それにしては、どことなく切なく、甘く、許されぬ恋人同士が逢引をしているようにも見える。
   当時は衆道が禁じられてはいなかったはずだから、男同士の恋人なのかもしれない。
 
 


「おーい 飯食ったか~?」

隣の部屋を片付けていたはずの先輩が、地上に上がってきた。
芸術性など皆無に見える騒がしい男だが、目だけは確かな学芸員だ。

                                 「面白い絵でも見つけたか?」
 
手にしていた絵を見せた。
彼は触れようとはせずに、覗きこむ。
素手で美術品に触れるなというのは、新人の頃、この人に教えられた。
 
「ああ、これね。絵師の習作か、手慰み、ってとこだな」
「手慰み、ですか?」
「考えても見ろよ、役者絵でもなく、枕絵でもない。こんな色気皆無の絵、どこの版元が買うかよ」
お江戸の版元は買わなくても、こうしてうちの美術館にあるじゃないか、とは思ったが、
言われてみれば、その通りなので、言い返せない。
 
「色気は.......あると思うんですけど。それに」
「それに?」
 
直視されてしまった。美術館職員ではなく、芸術評論家のような目だと思う。
正直に、思ったままのことを話す。
    「甘さと、緊張感があります。霧雨の絵ですが、これから嵐が来るような、破滅が待っているような」
 
「破滅、ねえ」
絵を見る横顔からは、何も読み取れない。 風に、艶気のない灰色の髪が揺れた。
 
「この二人は、死んだんでしょうか?」 
数ある心中ものの絵画に通じる気配がある気がして、問いかけてみたのだが。
「あったりまえだろ、150年も生きてたら、それこそギネスブックさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それより、飯行こうぜ。早く行かないと混む」
「そう、ですよね」
 
     丁寧にペイパーウェイトを置いてから、手袋を外した。
     先輩の後ろ姿は、もうはるか遠くに離れている。
 
                   -------どことなく貴方に似ている、とは、今年も言いそびれた。
 
 
 

 
古い友人が、BL系のお絵描きブログをやっていまして。
パロディだのなんだの、あるわけです。
テレビアニメのキャラクターだけ借りて (喋り方や性格も元ネタを踏襲してるのかも)、
お江戸の売れっ子絵師たちが、事件に巻き込まれるお話(プラスあるふぁ)でした。
 
元ネタを知らないものの、日々、キャンバスに向かっていた頃が懐かしく、
そしてまた、今もテーブルに筆が立っているであろう彼女の生活が、少しうらやましくもあるのです。
 
 
………さて、家についたら、再びプロポーザルの続きを書かなくては。