読書録 『フィッシュストーリー』
「僕の孤独が魚だとしたら、そのあまりの巨大さと獰猛さに、鯨でさえ逃げ出すに違いない」
架空の小説の一文を軸に、いくつかエピソードをつづった、短編集。
文章は読みやすいし、面白くなくもないし、途中で投げ出したくなるわけでもないのだが、
少なくとも表題作は少し物足りない。
が、その架空の小説に出てくるフレーズが、なんだかとてもいいのだ。
とはいえ……… なーんか似たような情景を読んだことがあるんだよな~
鯨 (あれ? ゾウだったかも) の形の雲が、空にたなびくシーンがある。
で、その鯨型の雲が見える時の、人 (少年だったかも) の心境がどうのこうの......... と、詳細は忘れたが、
「つまり鯨は、悲しみのかたまり」
という一節の音感が、めちゃくちゃ綺麗で、記憶に残っている。
フィッシュストーリーの情景は、それにどこか似ているような気がするのだ。
アンソロジー中の作品は、それほど評価は良くなかったように思うが
(少なくとも大賞の作品ではなかった)
シナリオライターか、TVの脚本が本職の人で、それゆえのぶつ切りの文章が.... 云々
という評があったように思う。
名前忘れちゃったな~ 本棚のどこかに残っているはずだから、あとで探してみよう。
さて、感想に戻ると、
「サクリファイス」 の ともすればドロドロしそうな圧迫・感閉塞感を、
黒澤という常連キャラの軽さと賢さで、緩和してまとめるのは、テクニカルだなあ、とは思うし、
多分、書かれていない設定がいろいろありそうなこと、
主人公も、登場人物も言及しない真相があるのはわかる。
こちらも、小説の厚みが無くもないのだが、やっぱり、少しだけ物足りない。
ただ、言葉だの言い回しだの、とてもかっこよくてウィットに富んだものも多かったので、
人気のある作家なのもわかるような気がする。
でも、同じ軽いなら、(これだけで比べたら) 石田伊良の方が好きかなあ。
レビューを見ると、伊坂作品としてベストではないそうなので、
人気のある 『重力ピエロ』 でも読んでみようかと思う。