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読書録 「チャイルド44」

 
新潮文庫 トム・ロブ・スミス 「チャイルド44」 読了。
 
2009年の「このミス」か何かで、1位になっていて、そのあとに購入してそのままになっていた。
実話をもとにしている(ネタにしている)ということで、
その殺人鬼のモデルになったチカチーロの話は聞いたことがあったので、想像はできていたのだが。
 
それでも、トップグレードの面白さでした。
 
大まかなあらすじ&感想を書くと……
 
1933年、飢餓に喘ぐソビエト連邦ウクライナのチェルヴォイ村で、
兄パーヴェルと弟アンドレイは、食用目的で猫を捕まえようと森の中に入るが、
パーヴェルは行方不明になってしまった。
当時は猫だけではなく、人間の子供も食用目的で攫われることがあったから、
アンドレイと母親は、そのことを悲しんだ。
これはそんな時代、そんな世界のお話だ、という事が、嫌というほどたたきこまれる。
また、アンドレイというのはポピュラーな名前だから、あとで登場人物として出てくるかな、等と思った。
 
二十年後、幼児が行方不明になる事件が発生した。
国家保安省のレオの部下フョードルの息子アルカージーも殺害される。
しかし、当時は 「ソビエト連邦には犯罪は存在しない」 という建前になっていたので、
レオは目撃者達を黙らせ、フョードルにも事故死だと認めさせた。
 
    この辺、公務員の不祥事や、学校のいじめ問題にも共通するような気がして、複雑でした
 
また同時期にレオは、スパイの疑いを掛けられていた獣医アナトリー・ブロツキーを逮捕した。
しかし、ブロツキーがスパイではないこと事がレオには判明 (←なのに処刑されるのがわかっている)、
部下のワリーシーがブロツキーをかくまったかどで農夫とその妻を殺害したこと (←なのに罪に問われない)、
など、国家保安省の役人としての心が揺らぐような事件が立て続けに起こる。
それでも、国家の規律のためには、国民の犠牲はやむを得ない、と、納得している。
国家を盲信しているものの、彼の心が歪んでいないことは、事件の端々から分かる。
 
そんな折、レオの奥さんに懸想したエロ医者の差し金か、ワリーシーの策略か、
レオの奥さん (←若くて大人しくて美人) がスパイの疑いをかけられる。
それをかばってしまったことで、上司の謀略によってウラル山脈のど田舎の村に左遷される。
そこで、少年少女を対象とした惨殺事件が連発する。
アルカーシーの子供と同じ殺され方だ。
レオはそれまでの組織の意向に沿った勤務態度を改め、本気で事件解決を目指し始める。
 
(これ以降はばれない方がと思うので、反転させておきます) ←逆に言えば、↑は知っていてもいいネタばれ。
 
それまで従順だったレオの妻は、左遷される電車の中で、
レオが国家保安省の役人だったから、プロポーズを断ったら殺されるか捕まる、
と考えて、従っていたのだ、という事をレオに伝える。
左遷先の地でレオの周りの人々は、レオの職種を疑い、距離を取ろうとするが、
レオは前職を隠したり、言わないことで、それぞれの人間の素行や好意を引き出すことを学んだりする。
また、モスクワでは、無実であると知りつつ、あえて大切な家族を通報し連行させることで、
自分の国家への忠誠を証明する人々も少なくなかったが、
    (レオは、妻をかばって連行させないようにしたので、自分も左遷される羽目になった)
子供が犯罪に巻き込まれ、殺されることを止めるために、
手配中のレオたちを命がけで逃がそうとしてくれる人たちがいることも知る。
それはならずものだったり、臆病な村人だったりするが、レオは訴えることが無駄ばかりではないと知る。
そういうわけで、下巻に入ると、上巻が積み上げてきた規律や考え方、人の役割がひっくり返る。
レオの心の成長の軌跡のようにも読める。
 
複数人数で、これまでの殺人事件を捜査し、リスとし、犯人像を推理して追い込んでいく手法は、
わくわくするばかりでなく、警察小説の王道だ。
犯人が主人公の身内、というのも、王道と言えば王道な気がする(苦笑)
冒頭に出てきた兄弟が、犯人と警察の別れていたこと、
犯人の犯罪へのモティベーションに、あまり説得力がなかったことが唯一残念なポイントだが、
彼らを兄弟にすることによって、レオを取り巻く多くの人達、犯罪の形がいっそう重みを増してくる。
レオが、工場の名簿から犯人の名前を見つけるまで、
読者も全く冒頭の舞台と、殺人の舞台の共通点を見つけられないのも、上手く作ってるなあ、と、思う。
 
残念ながら、私はアンドレイもパーヴェルも覚えやすい名前だったので、
近くにわざわざアレクサンドルなんて言う名前を振りかけられても、混乱させてもらえなかった。
 
まあ、つまり、なにも無駄のない作品だなあ、と思うのだ。
 
なんとなく、当時のソ連を考えても、続編が作られてもおかしくなさそうな終わり方だと思っていたら、
やはり続編がある様である。
姪っ子に当たるはずのナージャの将来も、気になるところである。
 
 
読んで損はありません。お勧め。