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読書録 『死にぞこないの青』

幻冬舎文庫 『死にぞこないの青』 乙一  電車の中で読了、所要時間は1時間ちょっとかな。 
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  先生が中心となったイジメ。
  評判の良い先生が、自分が非難されないがために、
  クラスの中に最下層の人間を作って、クラス中のうっ憤を、その人間に向けさせる。
  それは、たとえば宿題を出す時に、
  「○○くんが、わかってないみたいだから、全員に宿題」 とか、
  「○○くんがよそ見をしたから、授業が終わらなくて、みんな居残り」 のように、
  自分に対する不満の矛先をすりかえ、非難されなくするには、とても上手い方法だ。
  そして、クラス全員によるイジメが始まる。
 
乙一氏は、その平易な文体に似合わず、というよりは、平易な文体に隠れて、
グロテスクな人間の感性を描きだすのが上手いなあ、と、思う。
この程度の醜悪さなら大したこともない、○○の作品の方がすごい、と読む読者もいると思うが、
人間はグロテスク過ぎては現実味がなくてダメだ。
乙一氏のグロテスク加減は、ひょいっとありそうなレベルだから、ウケるのだと思う。
 
途中まで、実話かと思うくらいの現実味がある。

中盤以降、先生が小学生を本気で殴る、監禁する、など、極端に書かれているけれど、
他の職員がいなくなるのを見計らって罵声を浴びせられた、など、レビューを読むまでもなくよく聞く話だ。
このようなことをする先生を、(大学教授を含めて)、私は何人か知っている。
学生が携帯電話で罵声を録音する、などがあたりまえになって、大学では幾分マシになっただろうか?

後半、主人公である小学5年生の少年の反撃が始まり、
それはいじめを暴力で回避するという、あまり褒められない展開になるのだけど、
教師やクラスにいじめられて終わってしまった多くの子供たちは、スカッとしたのではないだろうか。
 
私など、「そこで許さないで、とどめを刺しちまえ」 とまで思った
 
 
一応、幻覚である「アオ」という少年が出てくるホラー作品ではあるのだが、
「アオ」がいなくても、破綻なくこの作品を作れたかもしれない。

大人しいと思って都合の良い生け贄にしていても、反撃してこない生徒ばかりではないのだよ、
という教訓として、小学校教師に読んでほしい気がする。
 
その一方で、、ジュニア向けの小説として書かれたのかな、とも思う。

  1。惨めな自分に絶望しないこと。
  1。冷静に何が悪いのか見極め、戦うこと。
  1。加害者を許すこと。

ラストシーン、新しい担任の先生がやってきて、ちょっと心温まる会話で終わるのだが、
それは多分、想定されている読者である現役の子どもたちを、
ほっとさせてくれることだろうと思う。


*うん、デロデロのホラーを描いていても、乙一作品って希望があったり痛快感があったりするんだよね。
.  バッドエンドでも、(プラスの)感動があったり。
.  つくづく、いい作家だな、と思う。 


 
なお、この作品は映画の原作でもあって、映画化されているのだが、
イジメのシーンが上手く描かれていなくて、
映画としてはかなり残念な作品なのだそうだ。

もっとも、リアルないじめシーンを映画で描きだしたら、
トラウマにヒットして、苦痛だったとか、模倣犯が出たとかって、
バッシングされてしまう原因になるのかもしれないけれどね。