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読書録 『転迷』

新潮文庫 今野敏 『転迷』 読了

あらすじ
大森署署長・竜崎伸也の身辺は、にわかに慌しくなった。
外務省職員の他殺体が隣接署管内で見つかり、担当区域では悪質なひき逃げ事件が発生したのだ。
さらには海外で娘の恋人の安否が気遣われる航空事故が起き、覚醒剤捜査をめぐって、
厚労省麻薬取締官が怒鳴り込んでくる。
次々と襲いかかる難題と試練――闘う警察官僚竜崎は持ち前の頭脳と決断力を武器に、敢然と立ち向かう。
.                                                    「BOOK」データベースより

隠蔽捜査シリーズ……というか竜崎シリーズの第4段。
評判の悪い第3弾はすっ飛ばして、1,2,3.5(短編集),4と読んで、特に問題くつながっている。

普通に面白い。
平易で読みやすいことは、この作家の作品はすべて共通しているのだが、
この間読んでいたテレビマンシリーズの垢ぬけなさに比べると、
この作品は、地文からしてとてもクールでハードボイルドだ。
翻訳物のハードボイルド小説の類とは違うのだが、
傍目にみたら面白い(ファニー)だと思われる、登場人物たちの掛け合いが描かれていても、
全体的に浮ついた感じにはならないのだ。

竜崎の「建前に心から従う生真面目さ」と、
伊丹の「多少ズルをしても帳尻を合わせたい」考えのセリフの絡み合い、
官僚社会の駆け引きや、省庁間の壁と、彼らの個々の対立など盛りだくさんで、
ステロタイプになりがちな舞台設定なのに、面白い。
キャリア官僚の、「そういうの、あるある」、と思うような行動も面白いし、
結構いそうなタイプがたくさん出てくるのも面白い。

その中で、実際の官僚にはなかなかいないんじゃない(←と思う)竜崎の建前と明晰さが心地よい。

ただ、出てくるキャリア官僚が皆、明晰で駆け引き上手で腹に一物あって、
というタイプばかりだったのは、「?」だ。
実際にはキャリア官僚にも、仕事のできる奴とできない奴がいるし……(←と、実感してる)
仕事ができてもできなくても、ノンキャリさんたち相手など対外的にはプライドが高いので、
だからこそ、「ばかだな~」 とか 「まぬけだな~」 と、思われちゃうこともあるわけで。
小説には、優秀な官僚しか出てこないので、「そんなことはないんだよ」、と、思ったりした。
(悪人だったり、竜崎ほど回転の速くない官僚はいても、バカが出てこないのが違和感)


先日、某外部の研究会で久しぶりに会った外務省の友達とコソコソ話していたら、
見るからに耳をそばだてて警戒しているって人(事務官っぽい)の目線に気づいたのだが、
その時我々は、映画やカラオケの話をしていて、しかも初音ミクがどーのこーのだったので、
違う意味(?)でコソコソしていたのだが
.      (そもそも文科省と外務省でコソコソしたって、何があると思うんだよ)
.      (いや、みくファンで話に入りたかっていう可能性もなくはない……かな)


そういうわけで、現実の官僚は竜崎や伊丹みたいに常に緊張して警戒して、
含み話ばかりしているってことはないかと思います。
その辺が、本当の意味でのリアルではない、「創作的リアリティ」なのかと思いながら読んでましたが、
今野敏を読むなら、このシリーズが一番お勧めです。