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読書録 『透明な方舟』

日帰り出張の読書録その②  薄井ゆうじ 『透明な方舟』 光文社文庫

.     二十六年前、飛騨白川郷
.     十二歳の私が住む合掌造りの家は、赤い炎に包まれ崩れ落ちた。
.     焼け跡からは、父母の遺体が。火事は私の心までも焼き焦がした。 
.     ……今、私の眼前に、その家が当時のままに現れた。
.     技術が作り出した仮想現実。そこには父と母、
.     そして〃彼女〃もいた。浮かび上がる苦い真実に私は……。
.     〃祈り〃と〃救い〃――幸福の「明日」を問う表題作ほか全四編!
.                                    (Book データベースより)


タイトルに惹かれて購入した。
とても絵画的な魅力のあるタイトルだと思う。
明け方の空を飛ぶ、透明な方舟……というイメージが広がり、
それは作者の名前の“薄井”ともよく似合う。

イメージしたのは、ターナーの「戦艦テメレール号」
スクラップにされる直前の戦艦をスケッチしたという話を知っていたからかもしれないが。 
イメージ 1


それはともかくとして。

この作家の作品を読むのは初めてなのではないかと思う。
読みやすい文章だが、文体に記憶がない。

主人公が自分の記憶の中に入っていったり、過去と現在が錯綜したりする不思議な空間は、
高橋克彦の 『悪魔のトリル』 だの、『緋い記憶』、『蒼い記憶』 あたりと同じ匂いかもしれない。
たが、高橋克彦の小説群が、伝奇物ですら、(超常現象範囲が限定されていて)論理的なのに対し、
『透明な方舟』はとても情緒的だ。

成人男子が回想録に選びそうな少年期の記憶だとか、さりげない思い出だとか、
小さなイベントが雑多、かつ大量に寄せ集められ、それがうまい具合に小説を形作っている。
だから、その大量のイベントの中に、自分と共有できるものがあればのめりこむだろうし、
それがなければ、「ふう~ん」、と、他人の回顧録を見る感じになってしまうのではないかと思う。

ところが私にとっては、一作目の透明な方舟は、かろうじてOK、
二作目は研究者たちが主人公なのにもかかわらず、「ふう~ん」な印象、
それ以降も、絵画的に美しいシーンがたくさんあるのに、内容はそんなにピンとこなかった。

単に私の幼少期体験が、一般とずれている、ともいえる。
そっか、ある程度文章力のある作家が、
雑多の範囲を広げていろんな人の幼少期体験に抵触するイベントを書けば、
誰の心にでもちょっとずつ引っかかる小説が書ける…… かも。


でも、綺麗な小説だなあ……と、思う。 
マニアにしか受けないかもしれないけど、短編の映画になってほしいかな。