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読書録 『警視庁科学特捜班 黒の調査ファイル』

学会の合間は『ジウ』を持ち歩いていたので、
       その他の文庫は本棚に積みあがってましたが、

今野敏 講談社文庫 『警視庁科学特捜班黒の調査ファイル』 一日分の通勤時間で読了
   http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refISBN=406182449X

 新宿中国人マフィアの抗争 謎の発火現象の裏に陰謀が…科特班(ST)が真相究明に挑む!
 ST黒崎の武術vs.中国拳法! 
 暴力団詐欺グループに復讐しようとする役者志望の若者たちに加勢することになったST黒崎。
 新宿の密室発火事件の科学捜査から中国人マフィア退治へと進み、科学エリートギャングと
 武闘派用心棒コンビとの対決へ。
 無力な若者たちの正義の戦いは実を結ぶのか?武術の達人黒崎が挑戦するシリーズ最凶の犯罪集団!
                             (講談社ノベルズの内容紹介から)

             
………まあ、出版社が出している内容紹介だから、嘘ではない。 こういうあらすじのお話である。
ただ、全体として受ける印象は、ずいぶん違う。
2万9千円の振り込め詐欺にあったからって、暴力団相手に1500万の詐欺を仕掛け返すかね (^_^;
まあ、でも、それを許してしまうような、文字で読む少年漫画として楽しんだ。


話のスタイルと重みが違うので、比較するのもなんだが、
脳内お花畑の美咲ちゃん(『ジウ』に登場する女刑事) より、
青山君 (STメンバー、心理学担当) の方が、はるかに緊張感がないだろう、という気がしないでもない。
なんで美咲ちゃんの描写は 「現実味がない」 と思いながら、青山君はOKなのかを考えてみた(笑)

一つは、小説を読みながら期待しているものが違うこと、
もう一つは、作者の描写のうまさなのだと思う。

私は、今野敏の小説は 『隠蔽捜査』 以外は、文字漫画として読んでいる。
STは、戦隊ものだ。実際にはありえない設定の上に積みあがっているからそう思うのかもしれない。
で、だから、現実味のなさを気にならないのだと思っていたのだが....

黒の調査ファイルを読んで、この人のうまさに思い当ったような気がする。

登場人物の書き分けが、さりげなく、かつ徹底しているのだ。
例えば、STの5人のメンバーと、百合根という警部が出てくるのだが、
このシリーズのそれぞれの事件簿を思い返してみると、
それぞれの1人称記述はあるものの、どの巻でも、百合根は主に語り手、
医者である赤城の考えていることは比較的書きこまれていて(主格記述が多い)、山吹もそれに準ずる。
青山と翠も全くないわけではないが、筆者とのギャップが大きいのか、
彼らの考えていることの記述や心理描写は少ない。
    (だから、「こんな考え方する女いないだろっ」という突っ込みどころがない)
無口な武芸者、黒崎にいたっては、いったい何行あったのだろうか?

「黒崎は……と、思った」 風の記述がないことで、
彼の超人ぶりが、自然に際立っていたように思う。

これまで、気にしないで軽い読み物として読んでいたが......
その軽さを生み出すテクニックや、作品の雰囲気作りなど、
実にうまい作者なのだなあ、と、思いました。

ただし、トリック云々は実にシンプルです★ 
気軽な読書にお勧めですが、『隠蔽捜査』のように絶賛はしません。


         …………しかし、アンダーソン局在って (涙)